さとやま

里山研究会ニュースレター
第16号
2001年2月28日

第7回里山研究会ワークショップ
「里山の生態学・里山をよみがえらせる技術」

第7回里山研究会ワークショップを以下の要領で開催します.ふるってご参加ください.

第1部 エクスカーション「ペレット工場とペレットを利用する病院の見学」

かつて薪炭生産していた頃のように里山林を持続的利用するため考えられる木質バイオマスの利用としてペレットがあります.今回のエクスカーションは徳島県にある(株)筒井でペッレット生産の現場を見学した後、生産されたペレットを熱利用している徳島市の鴨島病院を見学します.(株)筒井では約100 トン/月のペレットを生産しています.

と き:2001年3月16日(金)午前9時京都大学理学部2号館前出発.夕刻京都着.
ところ:(株)筒井     徳島県阿波郡市場町尾開
        鴨島病院     徳島県徳島市

車の手配のため参加者数を把握する必要があります.参加希望者はハガキ・ファックスまたは電子メールで下記まで申し込んでください.3月14日午後5時必着です.

612-0855京都市伏見区桃山町永井久太郎
    森林総合研究所関西支所造林研究室
     伊 東 宏 樹
     Fax: 075-611-1207(Faxの場合必ず伊東宏樹宛と書いてください)
          E-mail: hiroki@fsm.affrc.go.jp

第2部

と き:2001年3月17日(金)10:00 から16:30
ところ:京都大学理学部2号館120号室
10:00-10:15  あいさつ
10:15-10:55 柳沢 直(京大生態学研究センター)
           「植物・水・地形からみた里山林の生態」 
10:55-11:35 宮崎由佳(京大生態学研究センター)
           「里山の植物ショウジョウイバカマの生態と里山の構造
            ー集団遺伝学的解析からわかったこと」
11:35-12:15 津田 格(京大農学研究科)
           「キノコと線虫の生態学」
13:15-15:15 中川武夫(北陸粗朶業振興組合)
          「粗朶生産とその利用で里山林の管理を
          —粗朶の歴史、粗朶の生産、粗朶沈床の技術、古くて新しい 
            粗朶利用」(粗朶生産・粗朶沈床工事のビデオも上映します)

京大理学部2号館への交通

JR京都駅から市バス17号系統、京阪電車「出町柳駅」から市バス17号、203号系統、地下鉄「今出川駅」から市バス203号で「京大農学部前」下車徒歩2分.


第6回里山研究会ワークショップ開催される

第6回里山研究会ワークショップ「日本の里山を蘇らせる技術」は,2000年1月22日京都大学において開催されました.本稿は,藤井さん・奥村さん・保田さんの当日のご講演の要旨を編集部の文責でまとめたものです.

燃料作物ナタネの導入とバイオディーゼル
—ドイツにおけるバイオディーゼル事情—

滋賀県環境生協 藤井絢子

ナタネ栽培とナタネ油のエステル化

滋賀県愛東町役場 奥村清和


東京工業大学大学院の吉川邦夫教授が開発された新しいゴミ処理システム=廃棄物焼却システムが実はさまざまな規模でのゴミ処理を可能にするだけでなく,発電にも使えるというので注目を浴びている.しかし,このシステムを使って木質バイオマス発電するためのシステムとしても優れた特性を持っていることがわかった.その理由は,このシステムが温度が約1000度の高温空気で廃棄物を処理するシステムであるために,木質バイオマスを用いたガス化装置にとって処理が難しいタールの処理をうまくこなせる可能性があるというので,里山研究会としてもこのシステムに注目した.吉川さんに講演をお願いしたが日程の調整ができなかった.そこで吉川さんに代わって,システム開発を支援している(株)テクノバの保田富夫氏に,吉川さんが開発したMEETシステムについて紹介していただいた.

新しい木質発電の可能性

(株)テクノバ調査研究部 保田富夫

MEETシステムとは,廃棄物処理のシステムであるが,処理のいくつかの段階で廃棄物の熱エネルギーを取り出して利用できる技術であることから,Multi-staged Enthalphy Extraction Technology と名付けられた.

取り出された熱エネルギーで発電することもできれば,残渣を熱で固化すれば建材や土木材料として使うことができる.約1000度の高温空気で処理をするので,小型でもダイオキシンの発生が少ないので,小型のトラックなどに載せて団地などのゴミの発生地へ行ってゴミ処理を行って発電した電気をその場で売ったり,団地で使ったりすることができる可能性がある.炉内の酸素濃度が低いために,窒素酸化物(NOx)の発生も少ない.あちこちで設備を作り作ったはダイオキシンを発生するというので今処理に困っているFRPの処理もMEETならできる.プラスチックと金属からなるシュレッダーダストの処理も可能で,処理後には灰と金属になる.MEETはいわば煙突のない焼却炉といえる.

ふつう高い発熱量のガスを得るために,純酸素とか酸素富化空気などを使う.そのために酸素製造設備が必要である.結果的にシステムが大型になる.しかし,MEETシステムはガス化材に高温空気を使うので,装置の小型化に成功している.

このシステムのユニークなアイディアは,生成したガスを精製してできた精製ガスの一部を高温空気加熱器内で燃焼させ,ハチの巣状のセラミック蓄熱体である「ハニカム蓄熱体」を加熱し,その蓄熱体に常温の空気をとおして約1000度の高温空気を作り,この高温空気によって廃棄物の処理を行う.高温空気を作るために使われた残りの精製ガスは発電などに使われる.木質バイオマスのガス化に際してできるタールをこの高温空気によって分解して可燃性のガスにすることがこのシステムならできる.

1日当たりの処理能力が200 kgの装置(MEET-1)がすでにあり,2000 年からは1日当たりの処理能力4トンのMEET-2が稼働する.

現在のような最終処理場で処理するやり方では処理できなくなるので,将来的には産業廃棄物処理炉はなくなるような新しい生産システムをMEETは目指している(図参照).現在は,生産設備から出る廃棄物を輸送コストをかけて中間処理場に運び,さらに中間処理場から輸送コストをかけて最終処理場へ運んでいる.図に示すように,MEETが目指す生産システムは,生産設備で出た廃棄物をMEETシステムで処理して取り出したエネルギーを売ったり,自家使用したりしたうえで,さらに処理残渣を高熱で固化したものを建築材料や土木材料として売れる.つまり,処分場を必要としない生産システムというわけである.

いわば,夢の生産システムである.

循環型社会では,資源消費を最小にして,廃棄物をの再利用を推進しなくてはならない.MEETがめざすのは,そういった循環型社会の実現に向けた技術である.


書籍紹介

N. Martini and J. Schell (ed.): Plant Oils as Fuels --- Present State of Science and Future Developments --- . Springer (1998)

この本は1997年2月にドイツのポツダムで行われた「燃料としての植物油」に関するシンポジウムの報告書である.ナタネ油から作られるバイオディーゼルはヨーロッパにおける再生可能なエネルギー資源の中で重要な位置を占めていると考えられているが,バイオディーゼルは優遇税制があってようやく化石燃料と競争ができる「ニッチ商品」にすぎないのではないかといった議論もあるため,異なった分野の人たちが集まって意見を交換する必要があるということで開かれたシンポジウムである.したがって,参加者は,経済学,燃焼学を含む工学,生物燃料,環境学,生態学,育種学,医学,毒物学,輸送関係などじつに広い分野にまたがっている.ヨーロッパだけでなくアメリカからの出席者の報告もある.

経済学的な視点からバイオディーゼルの競争力や市場性について困難な問題が指摘されていても,生産量が増加し,生産コストが低くなり,技術が向上しているようである.

第1部「植物油燃料のためのエンジン」

第2部「燃料としての植物使用に関連した毒性や環境問題」

第3部「バイオディーゼル用ナタネをつくるための育種の貢献」

の3部にわたっては研究発表がおこなわれた.

ドイツでは,1996年にディーゼル車用のバイオディーゼル燃料販売量は80,000ton/年になり,それは道路輸送用ディーゼル消費の0.4% になるという.この大量のナタネ油を供給する非食料用ナタネの栽培面積は230,000haになっているという.

環境に対するインパクトの観点から見ると,SOxはきわめて少く,COや炭化水素(HC),煤もかなり少く,ディーゼル微粒子物質(PM)は50%から35%減少するという.バイオディーゼルを使うとNOxもやや増加するものの,これも噴射タイミングの遅れによってかなり影響を受けるという.ラットを使った急性皮膚毒性と経口毒性の試験結果によると,バイオディーゼルの生物毒性は非常に低い.バイオディーゼルの生物分解はきわめて早く,90%が3週間で分解する.この事実は流出事故の時にたいへん意味があるという.毒性テスト,生態毒性テスト,生物分解性テストによって実証された結果から,バイオディーゼル燃料は化石ディーゼル燃料と比較するときはるかに環境に優しいことが実証されているという.また,アメリカやカナダなどでも,炭坑のような閉鎖的な場所でのバイオディーゼルの使用や,公共バスでの化石燃料とバイオディーゼルの混合使用が始まっているということもこの本で初めて知ることができた.

日本の現状から見ると,こういったシンポジウムが開かれること自体がすごいことである.いかに日本が遅れているかを痛感させられる.バイオディーゼルについてのかなりまとまった論文集でたいへん参考になる.

(田端英雄)


フィンランドにおけるバイオマス利用と新しい技術

木質バイオマス利用研究会の招きで,元フィンランド森林研究所教授で,現在VTT木質エネルギー技術プログラム研究部長のP. T. Hakkilaさんが来日され,2月19日東京で約400名が参加した講演会が開催された.ハッキラさんは高知県でも講演され,22日に岐阜県美濃加茂市でも講演をされた.このとき,ハッキラさんから下記の新しい文献を入手した.その簡単な紹介をしておきたい.詳しい記事は次号に掲載したい.

内容を若干紹介したい.

1. フィンランドの木材の53%が紙,製材品,ボード類などの木材加工品に,47%が黒液,樹皮,残廃材,燃料などバイオマスとして使われる.年間3000万m3相当の木材がバイオマスとして利用されている.

2. 1999年におけるフィンランドの森林から生産されるチップのうち,熱生産用として家庭用の暖房に18万m3,地域暖房プラントに27.3万m3が,コジェネ用として林産業における熱電併給システムに10.9万m3,発電所の熱電併給システムに18.5万m3が使われた.

3. 1960年から1999年までのフィンランドにおける森林チップの使用統計と2003年における目標(点線部分)

ハッキラさんによれば,1980年代にチップ使用量が減ったが,それはオイル価格が安くなったためである.しかし,今後は減ることはないとのことである.

(田端英雄)


カンパのお礼

次の方々からカンパをいただきました.厚く御礼申し上げます.

第6回ワークショップ参加者の皆様,山村靖夫様,松尾政子様,小瀧岑様

(順不同)

ホームページ移転のお知らせ

里山研究会ホームページは下記のURIに移転しました.

http://homepage.mac.com/hitou/satoyama/

里山研究会のWWWサイトでは,ニュースレターのバックナンバーや里山関連文献リスト,会員が発表した雑誌記事の紹介などを掲載しております.たくさんのアクセスをお待ちしております.

編集後記

「さとやま」の発行がたいへん遅れました.ほんとうに申し訳ありません.私が昨年3月に京都大学を定年退職して暇になると考えていましたが、とんでもない間違いでほとんど半分をネパールのカトマンズ盆地での古生態学的調査などのために外国にいました.里山研究会は元気であちこちに意見を発表しています.ホームページにアクセスしてみてください.

2001年4月から岐阜県美濃市曽代に新しくできる岐阜県立森林文化アカデミーでまた教育と研究に従事できることになりました.里山研究室ができ、植物や昆虫やキノコの専門家といっしょに里山林の林業的利用をすすめてさとやまのしぜんを再生するためにつとめたいと思っています.

新しい研究室の連絡先が決まりましたら、またお知らせします.

(田端)

毎度ニュースの発行が遅くなりまして大変申し訳ありません.代わりといってもインターネットが使える方むけですが,WWWサイトは随時更新しております.文献情報や,里山の生物の写真を募集しておりますので,こちらの方もよろしくお願いいたします.

(伊東)