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里山をどうする②
生物の生活を知る

田端英雄

生物が里山をどう利用しているかについて、少し詳しく見てみよう。田んぼは栄養豊かな環境で、多くの動物が田んぼで繁殖する。田んぼに水が張られると、カスミサンショウウオのような低水温で産卵し、田植え前に田んぼを出て行く連中がやってくる。田植えが済むとぬるんだ水に産卵するナマズ、コイ、フナ、ドジョウなどがやってくる。どれも田んぼで大きくなる。メダカも水路で冬を越し、この時期に田んぼにやって来て子育てをする。水路(排水路)と田んぼの間に大きな落差ができると、ナマズは遡上(そじょう)できても、メダカは遡上できない。その上、水路もコンクリート三面張りになり生物が()める環境がなくなって、多くの生き物が打撃を受けた。ダルマガエルでさえ落差が大きいと水路から田んぼへ移動できない。

このように見てくると「メダカ池」ではメダカを本当には守ることにはならないことが分かる。メダカだけが問題なのではなくて、水路や田んぼに棲む生物全体が困難に直面しているのだから、田んぼや水路を生き物が棲めるように変えないといけない。それがビオトープの復元である。

田んぼの(あぜ)は畦塗りをする面、平坦面と(のり)面からなる。平坦面と法面では草刈りの回数が違う。当然生育する植物が違う。畦塗り面には一年生植物が、平坦面には刈り取りや踏みつけに強い植物が生育する。背が高いワレモコウ、オミナエシ、キキョウ、リンドウなどは法面の植物である。

ところが近年こういった里山の植物が数を減らしている。草地が減った上に、柴が刈られて明るい林床の里山林から、里山林と田んぼの間の里草地=草生(くさおい)ともいう=にかけての環境が管理放棄で姿を変えたためである。本来の生育場所が田んぼや住宅地になり、人手が加わった環境でようやく生きてきた植物なので、管理放棄されると生育場所がなくなってしまうのだ。阻止てキキョウは絶滅危ぐ種に仲間入りしてしまった。ギフチョウが減っているのも、里山林の林床が茂って食草のカンアオイ類が減ったためである。

私の話を聞いた上石津町の大嶽文夫さんから手紙がきた。「大事にさえすれば植物は増えると考えていたが、どうも勘違いしていた。カキラン、リンドウ、センブリなどが自生する長年放置されて茂った草生を友人が刈り取った。折からの日照り続きでこれらの植物の全滅を心配したが、花期には今まで見たことがないほど立派に花をつけた。ササユリが定期的に刈られる高圧電線の下に生き残ってるのもいい例です」とあった。

こういった知恵を生かして、里山をどうするかを考えるのだが、時間はあまり残されていない。

(岐阜新聞 2003年2月2日)