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里山をどうする⑤
炭で下水処理

田端英雄

里山を荒廃から救う具体的な手法として次に提案したいのは、炭の利用である。

里山林は使われなくなって荒れてしまったが、里山林を()って利用することができれば、里山林をよみがえらせることができる、と前に書いた。炭の生産は、なんといっても里山利用の原点である。炭材=炭にする木=を十五年から三十年ごとに繰り返し収穫できるように里山林を管理する技術は、炭の生産によって確立したと言っていいからである。問題は燃料としての炭にあまり未来はないので、炭を生産するために里山林を伐ることができないことである。そこで、炭を燃料としてではなく、別の用途に使うことを考えてみた。炭には様々な優れた特性があり、燃料以外にも使われているが、まだ研究途上である。最近では、炭素は炭素繊維やナノテクノロジーで注目されている。しかし、すぐには里山林の利活用に役に立ちそうにはない。そこで私は、炭を屎尿や生活雑排水の水の浄化に使うことを提案したい。だれもが、下水道ができれば、水はきれいになると考えてはいないだろうか。ところが、万能ではないのだ。東京の下水処理水は、飲料水を取水する金町浄水場の上流を避けて隣の中川や東京湾に近いところに流されている。琵琶湖岸の矢橋下水処理場からの処理水が瀬田川で流されるのも、処理水を琵琶湖に直接流せないからである。現在の下水処理水の排出基準をもっと厳格にしないと、下水処理が普及しても川は汚され続ける。

「泳げる川を取り戻す」にはどうすればいいか。一次・二次処理をする単独合併処理槽に、炭を使った三次処理槽を付け加えることによって、処理水を飲めるまで浄化できる。窒素もリンも二〜三ppmである。炭を使った浄化槽をいち早く導入した福岡県久山町へ処理水を飲むために訪ねたことがある。生活環境課長の松尾さんが湯飲みと柄杓を持って出迎えてくれる。

三次処理槽のところへ行って、松尾さんがゴクゴクと処理水を飲み始めた。私も飲んでみた。京都の水道水よりもおいしかった。私は美濃の借家に炭を使った単独合併浄化槽を設置した。飲める処理水を流しているのは気分がいい。集中下水処理をできるだけ減らし、炭を使った合併浄化槽をどうしたら増やすことができるか。下水道建設には膨大な税金が使われて、その起債による借金が地方自治体の財政を圧迫しているため、今多くの自治体が、下水道建設の見直しを始めた。いいことである。秋田県は一部を浄化槽にすることで、一千億円を超える節減になると試算している。優れた単独合併浄化槽で下水処理ができるようになったからである。

(岐阜新聞 2003年6月1日)