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里山をどうする⑥
炭で下水処理

田端英雄

里山林をよみがえらせるには、マツタケ山を作るのも役に立つ。

岐阜県も滋賀県、京都府、兵庫県、岡山県、広島県などと並ぶマツタケの有名な産地の一つであった。上石津町でも、昔はマツタケが相当でたようである。おやつ代わりにマツタケでも食べておけと言われたという話を聞いたことがある。

最近では国内産のマツタケは高価でなかなか口にすることができなくなったが、私たちはあの特有な香りと形に特別な思いがある。しかも、値段が高い。そこで私たちはマツタケ山を作るのも里山を生かす立派な林業だと考えて、県内でマツタケ山作りを始めた。

マツタケ山を作るには、まずマツタケの生物学を知る必要がある。マツタケは担子菌という菌類で、大部分のキノコを作る菌がこの仲間である。マツタケは菌の名前であってキノコの名前ではない。菌類は落葉や落枝など生物の遺体を分解して再び植物が養分として利用できるようにするから分解者と呼ばれ、自然界では大事な仕事をする生き物である。シイタケは木材を腐らせる腐生菌の一つで、マッシュルームは枯れ草などを分解する腐生菌の一種である。

ほとんどの植物は菌根と呼ばれる菌根菌がかかわった特殊な根を持っていて、菌が落葉落枝を分解して養分を植物に提供する。一方、植物の方は光合成の産物の糖類を菌に与える。マツタケはこの菌根菌の一つで、相手の植物が主にアカマツなのである。クロマツ、ハイマツ、ツガ、コメツガなどもマツタケの相手の植物になる。

マツタケは、アカマツの細根に感染してその周辺に菌糸を伸ばし、シロと呼ばれる他の菌類や細菌がほとんど生活できない場所をつくり、そのシロを年々広げていく。ふつうマツタケと呼ばれているキノコは、生殖のための胞子を作り、その胞子を飛ばすマツタケ菌の子実体のことで、マツタケの傘の裏側にあるヒダの中に胞子ができる。この子実体はシロの縁に発生するので、来年は今年発生した場所のすぐ外側に発生する。シロが拡大するからである。このシロはマツタケが一種の抗生物質を出し、他の微生物がシロの中に増えないようにするのだが、シロの中に落葉落枝が増えると、さまざまな微生物が増えシロが壊される。最近マツタケがでなくなったのは、落ち葉かきをしなくなり、低木を柴として利用しなくなったために、林床に落葉落枝が増えシロが壊されたためである。だから林床の落葉落枝を除き、低木を間引けば、マツタケの発生が回復する。少しでもマツタケが発生する15年生から50年生くらいの健康なアカマツ林があれば、手入れすることである。一町歩あたり数百万円も収入が期待できる。立派な林業ではないか。

(岐阜新聞 2003年7月6日)