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里山をどうする⑦
田んぼでBDFを作る

田端英雄

里山を構成する田んぼや畑をどうするか。耕作放棄されると田んぼは荒れてしまう。山あいでは、すでにハンノキなどの林になってしまった田んぼもずいぶんある。耕作放棄すれば当然、(あぜ)の管理もできなくなる。田んぼを使うことによって、田んぼの自然を守るのが農業の姿だと思う。そのためにはどうすればいいのか。

取りあえず私の提案は、ナタネを栽培して田んぼを「油田」に変えることである。なぜそれで油田になるのか。これには少し説明が必要である。どんな植物油でも、メチルアルコールと反応させてメチルエステルにすることができる。このメチルエステルでディーゼル車を走らせることができる。軽油代替えの燃料なのでバイオディーゼル車(BDF)と呼ばれる。このバイオディーゼル燃料は、軽油と混ぜて使っても問題はない。もちろん燃やせば二酸化炭素は出るが、すべて来年育つナタネが吸収してくれる。つまり二酸化炭素の環境に対する負荷ゼロである。その上、排気ガスに含まれる微粒子(PM)が減るから、ディーゼル車のあの真っ黒な排気ガスがほとんどでなくなる。硫黄酸化物も激減する。排気ガスの、皮膚や目や呼吸器に対する生体毒性も、野生の生物に対する生態毒性も、軽油と比べると極端に低い。排気ガスに含まれるアルデハイドは少し増えることもあるので、これは除去装置で取ればいい。ナタネは、北海道から沖縄まで栽培できる。現段階で、ナタネには10アール当たり4万3000円の転作助成金が出るので、直接生産費、出荷経費などを経営費を差し引いても、収穫が10アール当たり200キログラムを超せば、所得が水稲を超える。ナタネ10キログラムから3.5キログラム、つまり3.85リットルのナタネ油が採れる。このナタネ油から同量のバイオディーゼル燃料ができる。田んぼを油田に変えるというのはこういうことである。化石燃料に代わる燃料を田んぼから作る。これは単なる二酸化炭素の排出削減にとどまらず、田んぼの生産力を維持し、農業を守ることになり、さらにはオイルの安全保障にもなる。静岡県では今年から、まとまったナタネ栽培に県独自の補助金10アール当たり5万円の上積みをすることに決めた。これは新たな動きになるかもしれない。あちこちで廃食油のバイオディーゼル化が試みられているが、廃食油には限界がある。事業系廃食油の80パーセントは既に回収されている上、一般家庭からの廃食油には多く期待できない。家庭では油を継ぎ足しながら使いきるほうが合理的だからである。廃食油に頼るのでなく、ナタネ油から直接バイオディーゼルを作るのがいい。田んぼを油田にする必要があるというわけである。田んぼを真っ黄色にしたい。

(岐阜新聞 2003年8月3日)