里山からみる自然エネルギー開発・供給と農山村の活性化(中)

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里山からみる自然エネルギー開発・供給と農山村の活性化(中)
ー里山林利用をどう進めるかー

田端英雄

薪炭生産のために伐採されることによって日本の里山林は生物の多様性を保全し,日本の自然の保全に寄与してきた。新しい林業的な里山利用をすることによって生物多様性の保全というすごい機能を回復させ,林業に誇りを回復させようというわけである。しかもそのことが,新しい時代の新しい自然と人とのかかわり方の提案にもなる。

持続的社会の実現に向けて

里山の新しい利用を考えることも,どのようにして持続可能な社会を実現できるかということと関連していなくてはならない。持続可能な社会をどのように実現するかは,まだよく見えていないが,資源を浪費し,分子ゴミを含むさまざまなゴミを出し続けて環境を破壊し,次世代に負担しきれないような大きなマイナスの遺産を残すような社会ではないだろう。そういった二十世紀を支配した社会ではなくて,自然の循環機能に適合した,自然資源を節約し,資源をできるだけ循環させる社会ということになるだろう。

こういった視点から林業を見てみると,林業は全く新鮮な姿を見せてくれる。そもそも林業はまさに資源の持続的利用のお手本である。森林資源は再生可能な資源そのものであるばかりでなく,生物的資源の再生というのは自然の循環そのものであるから,まさに未来社会の実現のためのお手本になることが可能なのだ。しかし,現実はどうかといえば,その再生可能な資源が利用されずに放置されたり,人工林の林業では資源とは考えられていないかのように見受けられる。たとえば,人工林の間伐材は市場を失ったところで林地に放置されることになった。人工林の収穫を例にとると,最終的に柱とか板とかのかたちで利用されているのは三〇%とか三五%で,植物によって生産された生産物の実に六〇%以上が,伐採現場に残される林地残材とか,製材廃材とか,プレカットの過程での廃材となって捨てられている。役立たずの薪炭林,つまりは里山林は,ものすごく伐られて人工林に転換されたけれど,おおざっぱないい方をすれば,それでもまだ日本の森林の半分は里山林である。その里山林は日本の林業政策の中では全くの邪魔者扱いされてきた。そのなかで生物学の立場から私たちは,日本の自然が当面している深刻な問題は,日本の生物多様性が危機にさらされていることで,その危機から日本の自然を救い出すには里山林を含む里山を見直す以外にないと考え,「里山研究会」を組織し,そこを拠点にして里山の価値を訴え,里山の再生を提案してきた。里山林についていえば,きわめて常識的であるが,炭や薪や柴という形で生物燃料(バイオマス)として利用するために確立した里山林の管理が日本の自然を守ってきたのだとすれば,そのすぐれた里山林の管理手法をいかすために,新しいバイオマス利用を考えることができるならば里山林はよみがえるだろうと考えた。そこで提案したのが新しいバイオマス利用,木質バイオマス利用の小型分散型の熱電併給システムであったり,ペレット利用であった。

最近,バイオマスの利用はあちこちで取り上げられるようになったが,その内容はしっかり見極める必要がある。とくに,地球温暖化防止のエースのようないい方でバイオマス利用を主張する人たちのいうことには慎重に対応した方がいい。バイオマスは確かに,適正な伐採をする限りにおいては燃やしたときに出る二酸化炭素は次世代の植物が光合成をして成長する過程で吸収利用されるので,二酸化炭素に関してはいわば地球環境に負荷を与えることがない「ゼロエミッション」ではあるが,地球温暖化に関していえば,基本的には総エネルギー需要をいかに抑えるかということが議論されなくてはならないのであって,バイオマスで地球温暖化防止などできないのだ。森林や農業をどうするのかという視点がどこかへいってしまったような話には注意しなくてはならない。しかも,窮地に追い込まれている人工林林業の救世主のような主張も結構あるが,良いアイディアがない間伐材の処分や林地残材,製材廃材のバイオマスとしての利用は確かに可能だが,人工林は自然には再生できないので,つまり植林をしなくては再生できないので,長期的な林業の展望をしっかり持って議論しなければならない。人工林に依存した安易なバイオマス利用論のように目先の困難の解決だけに目を奪われないようにしないと,近い将来,また別のもっと困難な問題に突き当たることになるだろう。

こういった意味で,長年にわたってバイオマス利用されてきた里山林のバイオマス利用はまったく問題がない。里山林は,いってみれば森林資源のバイオマス利用の主役である。なぜならば,里山林は植林することなく伐採後植林することなく自然の再生が可能であるからである。いわゆる,萌芽更新とか天然下種更新が薪炭林の管理技術であるからである。私たちの主張も,もし私たちが提案する里山林のバイオマス利用が可能ならば,それは人工林の間伐材や廃材の利用をも可能にし,林業の活性化につながるだろうというものである

どのようにしてバイオマス利用を実現するか

かつてバイオマス利用されていた頃と同じような使い方で里山林を使うことができれば,それは里山林を再生することにつながるだろう。地域の里山林をどのような林にするかを考える。その目標に向かってどのような利用が地域で考えられるか。地域の住民が参加して行政といっしょになってこういった問題を考えることが必要である。持続可能な社会の実現は,住民一人一人の生活の仕方にかかっているから,住民参加による合意形成は何よりもたいせつである。だから,地域の自然を地域でどうするかをみんなで考えて,それをみんなで実践していこうという合意形成なしに,これからは何もやることができない。したがって,行政手法も変えなくてはならない。だから,あちこちの地方自治体で,補助金をもらって「新エネルギープロジェクト」とか,「ゼロエミッション計画」とかが議論されているが,これらはどれも従来と同じ行政手法でやられているものが多いので,どれだけ期待できるかわからない。あしざまにいえば新しいエネルギービジョンなど描けない行政が,学識経験者などからなる委員会を立ち上げ,仕事はコンサルタント会社にマル投げして,「新エネルギープロジェクト」だとか「新エネルギーヴィジョン」をつくりあげている。しかも,コンサルタント会社もすごいもので,同じようなものをあちこちで引き受けて,まさに金太郎飴のような報告書を出している。こういったことが全国で行われているのかと考えると恐ろしい。そこには日本の自然をどうするかとか,日本の林業をどうするかといった理念は全くなくて,流行に乗り遅れないように新しいものに飛びついているとしか思えないものが多いからである。

町ぐるみとか村ぐるみで,新しいエネルギーコミュニティーをどう作り上げるのか,地域の経済的,行政的な仕組みをどのように作り上げていくのか,といった議論をしなければならない。というのは,別の分子ゴミを出すようなエネルギーを使ってバイオマスを長距離輸送することなく,地域の資源を可能な限り地域で循環利用する新しい経済構造を構築しながら,その結果地域の森林の管理がうまくいくような仕組みを考えて,バイオマス利用をすすめる必要があるからである。そこに住民参加が必要なのは,いま電気を使ったり,灯油を使っているところをバイオマスで置き換えていこうというのだから,当然灯油の売上が減る。バイオマス利用で新しくできる仕事でその売上減を補うというような議論抜きにバイオマス利用を地域ですすめることは難しい。地域ぐるみで合意形成したうえで,地域で「ゼロエミッション宣言」をして取り組まなければならない。さもないと,里山をよみがえらせるといった目標の実現はおぼつかない。電気と熱を利用できる製材所などでの自家熱電併給システム以外,現段階ではバイオマス利用のコジェネの実現には無理がある。しかし,ペレットのような形であれば,今すぐにでも実現可能である。月産百トン規模のペレット生産で実験的にをスタートさせることを提案したい。地域で使う以上のバイオマスは年へ供給できるのは当然である。

多様な里山林の利用を考えよう

この特集は「自然エネルギーが拓く1世紀の農林業」であるが,どうしてもここで一言付け加えたいのは,里山利用をバイオマス利用だけから考えるようなことになってはいけないと考えるからである。林業をさまざまな側面を持った豊かな産業としてその未来を描く必要がある。マツタケ山の造成も立派な里山林利用であるし,里山管理をする過程で生産される「粗朶」を使った古くて新しい河川管理を提案していくことも,林業の再生には必要である。泳げる川を取り戻すために,炭による水質浄化を提案し,新しい製炭法で安く炭を焼いて里山管理を行うというのも,里山林業の活性化に役立つだろう。

(つづく)

初出: 週刊農林 2001年2月25日号