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バイオマス戦略構築への提言(下)
バイオマス・ニッポンへ里山から提案>

田端英雄

2005年以降に、炭素税の導入とその税収を地球温暖化防止対策に使うことが、政府によって検討されているが、待ったなしで着手する「バイオマス・ニッポン」には間に合わない。そこで、バイオマスの利活用を進めるための当面の政策支援を考えなくてはならない。前号で触れた「帰属価格」とは、環境負荷がもたらす将来にわたる負担の評価であるが、それは環境税の根拠でもあり、世代間の公平性の議論の基礎でもあるが、それはまた環境負荷の削減に対する補助金額あるいは排出権の買い上げ価格の根拠にもなる。ここでは帰属価格に関する議論は省き、最近発表された環境省の二酸化炭素買い上げ価格1キロ当たり50円(10月29日付け日経新聞)を基礎に議論をすすめたい。

環境関連税と国内・国間の排出権取引とを組み合わせることによって、二酸化炭素の排出削減を目指すのが政策支援である。価格調節によって化石燃料の消費を抑制するとともにバイオマスを使いやすくする課税による支援は当面ないので、環境省による買い上げ価格をもとにバイオマス利用によってもたらされる二酸化炭素削減の利益を算定し、それをバイオマス利用を効果的に可能にするために使うことにする。この手法についての検討をお願いしたい。この場合、環境税の税収がないので何らかの財源を使うことに対する合意が必要である。

以下は里山林と農耕地からなる里山からの提案である。

バイオディーゼル(農耕地の利活用)

環境問題だけでなく、液体燃料の需給のギャップを埋める燃料としても、バイオマス燃料が注目されている。植物油をエステル化したバイオディーゼル燃料(BDF)は、軽油とくらべて多くの優れた特性を持っていて、二酸化炭素の排出削減や硫黄酸化物の減少だけでなく、BDFの排気ガスはその生態毒性が軽油とくらべて極端に低いので、「バイオマス・ニッポン」でも強力に取り組むべきである。

  1. 廃食油のBDF化

    年間約50万トンある廃食油の回収を、食品加工施設や飲食店からの回収率80%、家庭からの回収率を20%にすることによって25万トン回収できれば、毎年57.4万トンの二酸化炭素削減になる(排出係数: 2.64、BDFのライフサイクル二酸化炭素排出削減率0.8として算出)。削減量は287億円となり、地球温暖化防止対策推進新大綱の自動車交通対策部門の目標値450万トンの12.8%にあたる。

  2. バージンオイルのBDF化

    ドイツでは、環境税と補助金の政策支援で2003年にはバイオディーゼル燃料の生産能力を2001年の50万トンから2年で倍の100万トンにするほどの力を入れている。

農地の保全と生産力維持のためにも、日本でのBDFの本格的な導入には、日本産ナタネを使ったRME (菜種油からのBDF)生産が本筋である。静岡県の試算によれば、菜種の転作助成金4万3000円/10アールを含めると200キロ/10アールの収量で米作収入を超える。1ヘクタールの菜種栽培による二酸化炭素削減は約8万円(1.6トン)であるから、8000円/10アールの加算が可能である(搾油率35%)。

どのようにして栽培面積の拡大をはかるか。静岡県のトラック協会の取り組みを紹介しよう。東京都知事の発言を契機にRMEに取り組み、農家が栽培した菜種を全量協会が買い取ることにし、一農事組合法人の協力で昨年の十1.5ヘクタールから今年は一挙に100ヘクタールにする計画である。こういった事実をふまえて、控えめな提案として、各都道府県が約100ヘクタール(2003年度合計5000ヘクタール)から始めて毎年倍増すれば、2008年には栽培面積を16万ヘクタール(二酸化炭素削減25万トン、128億円、自動車交通対策部分の目標値450万トンの5.6%にすることができる。二酸化炭素削減は6年間で51万トン(253億円)になる。

さらに付け加えると、静岡県立磐田農業高校で、日本のエネルギー生産や環境保全に寄与する目的でナタネ栽培が提案されたとき、生徒たちが目を輝かせたというエピソードは今後の農業のあり方を考える上で示唆にとんでいる。生徒たちがこういった提案に農業の未来を感じたとすれば、意義は大きい。

<提案>

里山林の木質バイオマス利用

薪炭林として使われてきた里山林は、バイオマスエネルギーの宝庫であり、伐採後自然に再生する優れた特性を持っている。まさに再生利用可能なエネルギー資源である。里山林を繰り返し伐採利用することによって、生態系のサービスを確保し、生物の棲み場所の多様性を確保し、生物の多様性も保全できるから、里山林のバイオマス利用は、これだけの里山林を持つ日本が「持続可能な社会」の実現を目指す「バイオマス・ニッポン総合戦略」の中心的な課題である。

岐阜県上石津町における私たちの調査結果に基づいて提案してみよう。地域で最も導入しやすく、一般家庭など民生部門での利用が展開しやすい木質バイオマスのペレット利用を中心に述べたい。

  1. 里山林のバイオマス量と伐採搬出のコスト

    三十八年生のコナラ林では絶乾量で、157トン/ヘクタールの蓄積がある。ここではこの蓄積量を基準にして議論を進める。もっとも能率的な伐採搬出をしている素材生産業者のコストを基準に、伐採搬出コストを1万円/m3(絶乾量)とする。

  2. 灯油ボイラーのペレットボイラーへの転換

    灯油ボイラーによる2万2370リットル/年の灯油消費量は、ペレット換算で49トン/年になる。二酸化炭素削減量は、灯油よる排出量を16トンも上回る(360万円/年)。燃料費は、ペレットの方が1.24倍割高になる。

  3. 一般家庭での開放形の灯油ストーブのペレットストーブへの転換

    エネルギー需要調査の結果、主要な灯油ストーブの平均熱使用量は3240キロワット/年でペレット換算で878キログラム/年であった。二酸化炭素削減量は、1.29トン/年(約6万5000円)である。燃料費は、ペレットストーブと同等な規格の煙突付きストーブと比較すれば、1.38倍割高になる。実際に使われている開放形ストーブと比較すると、燃料費は約1.9倍になる。二酸化炭素削減量3年分の助成でペレットストーブへ転換できる。

  4. ペレット製造プラントの建設

    上述の規模のペレットボイラー2台、一般家庭540戸(全戸数の3分の1弱)にペレットを供給できる小規模なプラント(ペレット製造能力300キログラム/時間で、年間576トンを製造)を建設すると、建家をのぞいた建設費は約4200万円である。このプラントの建設で、灯油約28万リットル/年の灯油(1330万円)を節減し、ペレットによる二酸化炭素削減量は845トン/年(4225万円)であるから、一年の削減量でプラントの設備建設はできてしまうことになる。2年目以降の削減量分を二酸化炭素削減のための助成に回すことができる(740万円/年の助成で灯油との価格差をなくすことができる)。このプラントに必要なバイオマスは、毎年4ヘクタールの里山林を伐採することによって供給でき、生産量から判断して25年〜30年で一巡させるのが望ましいので100〜120ヘクタールの里山林を必要とする。

    (灯油の二酸化炭素排出係数:2.51、灯油ボイラーの熱効率:85%、ペレットボイラーの熱効率:80%、灯油の発熱量:8900キロカロリー/リットル、ペレットの発熱量:4325キロカロリー/キログラム、ペレットのライフサイクル二酸化炭素削減率:80%、灯油:47.5円/リットル、ペレット:27円/キログラムとして算定した)

<合意形成について>

一般家庭にペレットストーブを入れる場合、日常の生活の中から地球環境の保全や世代間の公平性、資源問題、狭い屋内の住空間の環境問題から少々高くても化石燃料をバイオマス燃料に転換する決断をするかどうかが問われることになるので、合意形成に役立つ情報の公開と、住民が納得した決定でなければ実現は不可能であるから地域での政策決定過程への住民の参加が欠かせない。何よりも個人のインセンティブを高める質の高い状況作りが重要である。

地域の里山林で生産したペレットを、販売、灰の回収などを地域のガソリンスタンドが担うような形で、地域で消費する仕組みができれば、エネルギーに関する地域自立型の経済が展望でき、それに伴ってわずかでも雇用の創出も期待できる。

<提案>

(週刊農林 2002年11月15日号)