高度成長期以後,日本の林業はスギ,ヒノキの拡大造林にはしり,柱材生産に特化するとともに,かつて林業という生業の場として大きな位置を占めていた里山林を無視するか,見捨てたのたということにもう一度,思いをいたす必要があるのではないか.里山林の林業的利用の結果,日本の自然は荒廃することなく,うまく保全されていた.生物多様性も維持されていた.私の主張は,里山林を新しい形で林業的に利用する手法を見いだすことによって,今一度,里山林を林業の中に位置づけることができるのではないかということである.そうすれば,日本の林業は,人工林と里山林の双方を管理することによって,日本の自然の保全に寄与することができる.生物多様性の保全という経済的価値に代え難い機能も,林業が果すことになる.結果として,再び日本の林業は誇りをとりもどすことができるのではないか.だから,日本の林業の未来について議論するときに,里山林問題を避けて通ることはできないのだということを,ここで改めて主張しておきたい.そして里山林利用の新しい形態の一つが,木質燃料を用いた小型分散型の熱電併給システム(コジエネ)なのである.里山林の定期的な伐採によって,かつて薪炭生産をしていた頃のように,多様な生物が生息できる多様な環境条件を里山林に用意することが可能であるからである.そして,絶滅させては二度と戻らない生物の多様性の保全は,持続可能な社会の重要な理念の一つである.
今問われているのは,持続可能な社会をいかに築いていくかであって,林業もどんな役割を担うかが問われているのだと思う.最近,林業関係者の間で行われている,右肩上りに増え続けるエネルギー需要をいかに抑えるかという講論ぬきの,地球温暖化対策としての木質燃料の利用,特に人工林林業の窮状救済を目的とした木質燃料利用による発電に関する議論はいただけない.この点に関して,まさに,木質燃料利用の先進国スウエーデンに,もっとも学ばなければならないのである.スウエーデンでは,ここ二十年近くの総エネルギー需要が大きく増えていないだけでなく,木質燃料の利用が大きく増大している点を注目する必要がある.さらに重要なのは,電力の自由化や炭素税,硫黄税,窒素税など環境税の課税を含めて,経済の仕組みや種々の社会的インフラの整備をすすめてきたことである.結果として,民生用では木質燃料がどの化石燃料よりも安価な燃料になっている.つまり,このことは,単なる林業の窮状を救うということではなくて,文化や社会のあり方についての見直しを必要としている.あらゆる再生可能な資源・エネルギーの利用の一環として,木質燃料の利用も考えられなくてはならない.
(京都大学生態学研究センター・助教授)
初出: 随想森林 No.41