里山研究会 > 第4回ワークショップ > 里山保全のための木質発電の可能性

里山保全のための木質発電の可能性
—第4回里山研究会ワークショップから—

伊東宏樹(森林総研関西)

1. はじめに

第4回里山研究会ワークショップは、7月5日から6日まで京都大学において開催された。本稿では、里山研究会を簡単に紹介した後、このワークショップで講演および討論が行われたものの中から特に木質発電に関するものを報告することとしたい。

2. 里山研究会とは

80年代後半、バブル経済とリゾート法により、全国的にリゾート開発ブームが巻き起こった。しかしその内容は、リゾートホテルにゴルフ場、スキー場もしくはマリーナと画一的で「金太郎飴」などとも揶揄され、また、自然保護上の問題を抱えて反対運動を受けるものも少なくなかった。なかでも、ゴルフ場開発は人里近くに計画されることも多く、農薬汚染の問題もあって激しい反対にあうことが多かったようである。京都でも88年に、大手不動産会社・地産の手により、五山の送り火で知られる大文字山にゴルフ場開発が計画され、問題となった(結局、市民の反対を受け翌年中止)。

当時、大文字山をはじめ、多くのゴルフ場開発計画の対象となったのが里山と呼ばれる地域である。かつては薪炭林などとして利用され、人間生活とふかいつながりをもっていたが、燃料革命以降は人とのつながりが切れ、放置されるところが多くなっている。身近な自然である里山を見直す動きが広がっていったひとつの契機がこのときのゴルフ場開発ブームではなかったかと思われる。

大文字山のゴルフ場計画が中止となった翌年、京阪奈丘陵で建設が進んでいた関西文化学術研究都市の開発予定地内でオオタカの生息が確認された。オオタカは、当時は特殊鳥類、現在は希少野生動植物種に指定されている野鳥である。その保護が問題となった。

このときの開発地も、かつては薪炭林として利用されていた里山である。ここからは、絶滅のおそれのある植物としてレッドデータブックに記載されていたイヌセンブリとヌマカゼクサという植物も発見され、この地域の里山が貴重な自然であることがますます明らかとなった。京都府は、建設計画を一部変更して、埋め立てられる予定だった溜め池とその周辺の森林24haを残すこととしたものの、有効な保護策はとられず、3種とも結局はこの地域から姿を消した。

このような経過からわかってきたのは、
(1) 里山は、希少な動植物の生息地ともなりうる豊かな自然である。しかし、生物学的には人手の入った自然として価値の低いものと見られてきたため、研究の対象とされることは少なく、まだわかっていないことが多い。
(2) 里山は、薪炭林としての役割を失い、そのほとんどが放置されている。そのために開発業者などの手にわたりやすくなっている。また、放置によって遷移が進行し、それによって希少種が絶滅するおそれもある。
といったことであった。したがって、里山の保全を総合的に考えるためには、自然科学的な基礎調査を行う一方で、その経済的価値を復活させ、適切な管理がおこなわれるような社会的条件についても考えなくてはならない。

こういった点について研究し、また市民や行政との間で議論をおこなうことを目的として1992年に里山研究会が結成された。そして実際にフィールドでの調査をおこなうとともに、ワークショップや講演会を開催して里山の自然とその保全について議論を重ねてきた。

これらの活動の現在までの到達点が「エコロジーガイド里山の自然」(田端英雄編著、保育社)として97年にまとめられて、出版された。生物学的な面については、もちろん全体像が明らかになったわけではないが、少しずついろいろなことがわかってきたと言えよう。里山の生物には、最終氷期の生き残りと思われる北方系の種が多く含まれる一方で南方系の種も含まれていること、定期的な人為撹乱、すなわち「安定した不安定さ」が里山の生物多様性を維持する上で大きな役割を果たしていることなどである。また、水田や溜め池といった農業環境が重要であることもわかってきた。

一方、里山の社会的保全策についてはようやく議論の入り口といったところである。里山の放置を減少させるためには、その利用を促進すればよい。とはいえ、旧来の薪炭利用をそのままの形で復活させることはほとんど不可能と言ってよかろう。したがって、里山の新しい利用法が必要ということになる。本来なら、自然科学的な面がもっと明らかとなってからの方が議論しやすいのかもしれないが、時間的余裕はあまりないので、とにかく議論を始めなければならない。

そこで、今回のワークショップでは社会的な保全策に焦点があてられた。レクリエーション利用、マツタケ山の復活、工業的な炭焼きなどさまざまな取り組みが紹介されたが、本稿では、その中から特に木質発電について行われた講演と議論について簡単にまとめてみたい。

3. 木質発電の可能性

講演の内容を紹介する前に、海外での木質発電やバイオマスエネルギーの利用について少し触れておきたい。

木質発電というと、日本では奇異な印象を持つ人が多いかもしれない。オイルショック時には林野庁も一時、その可能性について研究していたが、その後沙汰止みとなっているという。しかし、世界では使用されるエネルギーの14%が生物系のエネルギーである。また、地球温暖化が問題となっている現在、二酸化炭素排出量削減といった観点からももっと注目されてもよいだろう。木質発電は、燃料の生産段階で大気中の二酸化炭素を固定しているため、森林管理が適切に行なわれている限りトータルでは二酸化炭素を排出しないといえる。さらに、電力とともに熱も供給するコジェネレーションをおこなうことで熱効率も高くなる。

アメリカでは、350のバイオマス発電所があり、700万kWの発電能力があるという。さらにこれとは別に、650の企業でバイオマスを使って自家発電をおこなっているという。これらの燃料としては、農業および林産廃棄物が主に使われている。

スウェーデンでは、スウェーデンバイオマス協会(SVEBIO)によって、二酸化炭素排出量削減や農村部での雇用などを目的として生物系燃料の利用が推進されている。生物系燃料によるエネルギー供給量は70年には430億kWhだったが、94年には790億kWhにまで増加し、スウェーデンのエネルギー供給の17%を占めるまでになっているという。早生樹による、エネルギー供給用の森林の造林も進められており、94年までに1万1000haが植林され、2010年には30万haの林から150億〜200億kWhのエネルギーが供給される見込みとのことである。

また、このほかにもブラジルでも木質系発電所のプロジェクトが進んでおり、二一世紀には商業発電を始める計画という。

ワークショップでは、島根大学院生の小島健一郎氏から木質発電の技術面について説明があった。

木質発電には、蒸気タービンを用いるものとガスタービンを用いるものの二通りの方式がある。前者は、薪を燃やした熱で蒸気を発生させ、それで発電機を回すというものであり、後者は、木材をガス化させてガスタービンを回し発電するというものである。最大発電効率は前者が40%、後者が45%とさほど変わらない。しかしながら前者は発電容量が大きくなるため、後者よりも大規模集中型になりがちだという。コジェネレーションでは、需要地が供給地の近くにあったほうがよいため、それにはガスタービン方式が向くことになる。ガスタービンの、熱供給も含めた総合熱効率はおよそ80%に達するということである。

小島氏はまた、島根県吉田村をモデルとして木質発電によるエネルギー供給が可能かどうかを試算している。それによると、人口2674人、森林面積10211ha、年間電力使用量63万kWhのこの村では、出力2000kWの発電設備が必要となり、これに必要な薪の量は一年に8760tとなるという。これは村内の森林で持続的に供給することが十分可能であるとのことである。

しかしながら、採算面ではまだ課題が残っている。電力会社による買電価格が現在の水準では安すぎるため、今のところは採算が取れないという。そのため、薪のコストの大半を占める搬出費用を下げる必要があり、それには、薪を供給する林の路網密度を上げ、機械を導入するなど搬出方法を工夫する必要がある。あるいは、建築廃材を引き受けて、これを燃料として利用したりすることでコストを下げることも可能だという。一方、今後の電力事業の規制緩和や二酸化炭素の排出抑制策により売電価格が上昇することも予想され、そうなれば経営的にも成り立つと小島氏は指摘している。

この、コストの問題は総合討論でも議論となった。一方では、木質発電が今の経済システムの中で成り立つのかといった意見や採算性の問題をどう克服するのかといった意見が出た。もう一方では、コスト計算を先にやるのは現行の経済システムの中に入りきっている、企業間競争に突入しようというわけではないだろうという意見もあった。

ここで議論している木質発電システムは、商業的なものではなく、環境対策が主目的である。とはいっても、現実に事業としておこなうとなればコスト計算を抜きにすることはできまい。その上で、どのような事業主体がどの程度の規模で事業をおこなうかといったことや、政府や自治体が、環境対策として補助金を出したり、あるいは化石燃料の使用の方に課税したりする場合はどの程度の金額になるのかといったことなどを議論すればよいのではないか。いずれにせよ、こうしたところにまで議論を進めていくには、その可能性を追及し、必要性を訴えていくといった姿勢が必要であろう。商業ベースに乗らないからとあきらめてしまっては事態は進展しない。

4. 日本で稼働中の木質発電システム

一般への電力供給を主目的としない木質発電は日本でも実際に稼働している。木材加工工場において、廃棄物として発生するバークや鋸くずを燃料とするもので、電力や熱は主に自家消費されている。

エヒメ合板の山田清市氏からは、同社で稼働中の木質発電設備について紹介があった。同社では88年に、蒸気タービン式の木質発電システム(出力2000kW)を導入し、発電と乾燥に利用しており、燃料には、バーク・ベニア屑・合板・のこ屑等が使われている。このプラントを導入する前は、月200万から300万の費用がバークの処理にかかっていたという。廃材を仕入れてもいるが、処理に困るものなので仕入原価はわずかとのことである。完全燃焼させるので灰は少なく、0.8%ほどになるという。煙対策としては、電気集塵機を設けているので、煙はほとんど排出されないそうである。冷却水として一日に450tの水が必要であり、地下水をこれにあてているが、海の近くなのでこれに塩分が混ざるのがひとつの問題点であるという。現在、4名が二交代制で勤務しており、これが必要な人員である。こうした人件費や設備の維持費などを含めても、トータルコストとしては電力会社から買う電気よりも割安になっているとのことである。

エヒメ合板のほかにも、岡山県の銘建工業でもバークやプレーナーかすなどを燃料とする木質発電システムを88年から運転している。こちらは175kWと小型であるが、現在1950kWの発電設備を建設中である。

この両社の木質発電システムについては、ワークショップの後のエクスカーションで見学させていただいた。

5. 全国2000カ所の木質発電構想

岡山県真庭地区木材組合の山下忠雄氏は全国2000カ所に木質系ミニ発電所を造るという構想を述べた。

木質系ミニ火力発電所が必要な理由として山下氏は、人工林の除間伐材の有効利用をあげている。間伐材の価格が安すぎるため、間伐が適切に行なわれない例が多くなっているのは周知のとおりである。燃料には広葉樹材も使えるし、マツ枯れ被害木を使うことで防除面の効果もあるという。

山下氏のユニークな点は、単に木質系ミニ発電所を造ろうというのではなく、2000カ所に作ろうという点であろう。2000カ所という数は、全国に市町村の三分の二にひとつずつ造るという計算になり、これは、全国の山のある自治体に作ってもらいたいからだという。2000kWの発電所を2000カ所つくることで、総計400万kWの発電設備ができることになる。日本の発電施設全体から見れば小さいが、コジェネレーションもおこなえばかなりの化石燃料の節約になるであろうし、日本の里山の環境もおおいに改善されるであろう。

木質発電の問題としては、先のエヒメ合板のところでも触れたように灰の処理がある。しかし、山下氏によれば、これも木灰なので酸性土壌の中和剤などの用途があるという。

木質発電の問題点については、総合討論のなかでもそのほかいくつかの点について指摘があった。ひとつは、伐採した木材をそのまま燃やすのには抵抗があるというものである。大気中から固定した炭素とはいえ、ストックとして蓄えておけば、その方が温暖化対策には有効ということになる。ただし、里山の広葉樹は材としての用途は限られており、どういう形でストックするのかということが問題となる。

また、木質発電が産業として発展した場合、過伐を招くことにならないかという懸念もあった。これについては、生物多様性を損なわず持続的に利用するように何らかの基準や指針を設ける必要があるかもしれない。現在のところは過伐以前に、どうやって木質発電を定着させるかの方が問題であるのだが、こういう問題にも対応できるような研究を進めていかなくてはならない。

6. おわりに

木質発電には、石油や原子力などとは違って、ほぼ完全な循環システムを構築できるという環境上の大きなメリットがある。97年12月には京都で、気候変動枠組み条約第三回締約国会議(UNFCCC-COP3)が開催され、環境ついての国民の関心も高まってきたようである。里山の問題や木質発電についても多くの方が興味を持っていただくことを期待したい。

(注) 本稿は、「山林」97年11月号に掲載されたものに加筆したものです。


「第4回ワークショップから」に戻る