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環境林業の提案

氏原修(高槻市森林組合)

皆さん,こんにちは。わたくし,高槻市森林組合の氏原と申します。よろしくお願いいたします。

わたくしも,何度かこの里山研究会に参加させていただきました。その中で,私自身がいろいろと皆様方の発表や意見を聞きながら,里山をどうしていったらいいかということで,今まで私自身,林業の中にどっぷりと浸かってきたわけなんですが,何かできないかということを考えている昨今です。そういう観点からよろしくお願いします。

私に与えられました今日のテーマは,「環境林業の提案」ということです。今まで,私たちの業界では,環境というのは林業に,森林は環境に役立っているというのはわかっておりましたが,環境産業に結びつけるところまではいっておりませんでした。里山研究会に参加してる中から,やっぱり,里山を環境産業として続けていかないと里山は守れないんではないだろうかと思いつきました。そうした中で,里山を利用した環境産業がどういったものが展開できるかというのは,現在研究をさせていただいている最中でございます。

私がこの環境林業という言葉を思い出した裏には,従来の林業はどうだったかということで考えてみて,従来の林業は木材林業ではなかったかということがあります。林業というのは,植林をいたしまして,最終的に大きな木を作って建築材とか家具材とかそういったものに使うという目的を持ってやってきたわけでございます。それはそれなりに意義があり,この社会を支えて来たわけです。それが,21世紀を直前に迎えた今,一歩進んで,この森林林業を,環境的な林業という面から役立てていく必要があるのじゃないかというふうに考えています。環境林業というと,言葉では難しいんですが,環境に役立つ林業という形で定義付けてもいいんじゃないかと考えています。

そこで,少し,私どもの高槻のことを紹介させていただきます。高槻というのは,ちょうど大阪と京都の中間でして,36万の都市です。しかし,その36万の都市に,その面積の約半分,5000ヘクタールの森林が残っております。その中で私たちは,林業活動をやってきて,その半分,約2500ヘクタールをスギやヒノキの人工林に変えました。

これは,戦後の国土復興や木材価格の一時高騰した時期もあり,木を植えればなんとかなるという時代があったので,植えてきたのです。しかし今日,木材が外国からたくさん入ってくるという時代です。また一方で,鉄やコンクリート,プラスチックなど木材に代わる構造物が開発されました。ということもありまして,木材の,国内材の占める割合は大体25%くらいです。一方で住宅材で占める木造率が,大阪では27%くらいしか木で建つ家がありません。他はほとんど,コンクリートや鉄といったもので建っていて,だんだん木材林業が片隅に追いやられているというのが実情であります。私たちはなんとかこの木材林業を攻めの林業にしていかなくてはということを考えています。そのため,やはり時代の要請に応じて,都市近郊においては環境林業にシフトをしていく必要があるんじゃないかというふうに考えているわけです。

この間,先ほど,田端先生からも紹介がありましたように,「里山の自然」という本が発売をされたわけですが,その中に少し書かせていただいたのですが,先ほど先生のお話でも触れていましたが,もともと里山というものは,我々山村の側に必要だったわけです。炭を焼いたり,薪を作ったり,先ほどもいいましたように建築の材料を作ったり,極端なことをいえば,娘がお嫁に行くときに,その山の木を折って,嫁入りの荷物を作ったりとか,ということで,里山が必要であったということがいえるというわけです。しかし,時代が変わり,エネルギー革命やいろんなことがあって,里山の人達が,その里山を必要でなくなったということが大きな問題でありまして,私はそのことを,山村から都市へと,逆転の要請じゃないかということを書かせていただいたのです。私は,このことが非常に大事でありまして,この議論をきちっとしておかないと,やっぱり里山は守れないんじゃないかというふうに考えております。

やはり本来ならば,必要とする人がこの里山を守っていくべきでして,そういう私の発想からいきますと,都市の人がこれから里山を守っていくべきじゃないかというふうになるわけです。今後誰が里山を守っていくべきかという議論はおおいにしていかなくてはならない基本的な理念じゃないだろうかというふうに考えております。

本の中にも少し書かせていただきましたが,理想として従来通り,炭や薪や木材をつくって,林家の人が守ればいいんですけど,これにも多くの資金と労力が必要で,それにたいして見返ってくるものがないので,現実でみれば非常に難しいということがいえるのではないかと思っております。それでは,国や地方,公共団,市町村とか都道府県というものが守ればいいということだと思うんですが,非常に大きな面積であります。里山がいくら減ったといえ,高槻では5000ヘクタール,大阪でも5万8000ヘクタール,近畿地方を集めましても,何十万何百万ヘクタールになると思っています。そういった里山を守るということは,非常なお金がかかります。現実論で,約1ヘクタールの里山を守るのに,50万から80万のお金がかかると私は思います。それが,毎年は整備しなくても,5年から10年の間に一度整備していくとしますと,例えば高槻市の5000ヘクタールの里山について,毎年1億から2億のお金がいることになりまして,それだけ税金をつかわせてくれるかという問題がございます。

そういったものの手助けとして,最近市民参加とかで,市民が森作りに参加しているわけでありますが,大規模な森林を守るのが現実論としては非常に難しいものがあります。そこで,私はやはり,今日も先生の方から触れていただいてますが,森林組合が守っていかなくては仕方ないのではないかと考えています。そういった意味で,森林組合が足腰を強くいたしまして,時代の要請に答えられるように発展をしていく必要があるんじゃないかと思っております。幸いにも今年の4月に,森林組合の法律が改正されまして,森林組合がいろんな多角的な事業にまで参画ができるようになりました。極端なことをいえば,葬祭場までできるようになりました。そういった中で,森林組合が体力を作り,足腰を強くして,里山などを管理する担い手になっていく必要があるんじゃないかと考えております。

先ほど,田端先生から10年待てないというお話がありましたが,これはまさにそのとおりでありまして,日本の林業労働者といわれる方々が,大体3万人から4万人いらっしゃるわけですが,その平均年齢が55歳を超えまして,60歳に近づいています。あと5年もすれば,会社でいえば,大体の方が定年になってしまいます。そういった方々のあとがいないわけですから,その人達がひとつの施業を受け継いできた方策というのが,引き継げなくなるという,そういう危機感もありまして,早急に森林組合としては,そういう体制を継ぐ必要があるという風に考えているわけでございます。

それでは,私が提案させていただく「環境林業」というのは,どういうことであるのか,少し具体的に説明をさせていただきたいと思います。私ども森林組合では昭和50年代から森林レクリエーション事業に取り組んでまいりました。これは,都市近郊というようなこともございまして,都市近郊に位置する好立地を活かして,森林観光産業,そういったものをやってきたわけでございます。具体的には,高槻市の山の方に,シイタケ園を作ったり,バーベキューセンターを造ったり温泉施設を作ったり遊歩道を造ったりとか,木工クラフトをできる施設を作ったりとか,そういったレクリエーション施設を作ってまいりました。これも,広い意味では環境林業ではないかと思っております。

先ほど私は,環境林業とは環境に役立てる林業だと定義をさせていただいたわけですが,市民の方々がよく山に来ていただいて,自然とかそういうものを満喫して楽しんでいただける,環境がそういったことで役立つ林業だから,こういった観光林業も環境林業でないかと考えております。

それから,従来の林業のなかでも,例えば保安林の中でする施業なんかも,環境林業じゃないかと考えております。従来は良い木材を作るために,枝打ちや間伐,下刈りをしてまいりました。しかし,時代の要請とともに,例えば治山,治水とか,水とか緑とか空気とか,そういったものを作るために,例えば枝打ちをする。従来は,木材産業では枝打ちといっていましたが,最近では私どもは枝抜きといっております。それは,枝を抜いて林内に光を入れてあげることによって,地表に新しい草が生えたり,新しい動植物が生まれたり育まれたりするという意味です。そういうような手法をこういっております。間伐を間引きといったりするなど,施業をそういったやりかたで考えております。都市部,特に里山なんかでは,こういった施業自体も,木材林業的なやり方から,環境林業的な施業へと変えていく必要があるのではないかというふうに考えております。

それからまた,私どもの森林組合では,緑化木の生産などもやっております。これはなんのためにやっているかというと,都市の人達に緑と潤いを与えるためということでありまして,これも都市の人達に環境に役立つ産業と言うことがいえるのではないかと思っております。これも環境林業の一環ではないかというように考えているわけです。

それから,新しい取組といたしましては,森林のリサイクル事業というのを,数年前からしています。これはどういうことかといいますと,例えば,マツクイムシの被害木であるとか,間伐材なんかを,大型の破砕機で砕きまして,堆肥とか,土壌改良材なんかに使って,それをもう一度土に還元をしていくということです。最近では公園の剪定枝とか,街路樹の剪定枝なんかも破砕しまして,堆肥に使っております。これも言い換えれば,最終的には土の改良とか,緑化の役に立つわけでございまして,環境林業の一環ではないかというふうに考えております。

先ほども田端先生の方から木炭の話もでたわけでございますが,私も小さい頃から親父が炭焼きをしていたので炭のお手伝いをしたのですが,そういった炭なんかも環境林業の一環ではないかという風に思っております。炭というのは,もともと燃料のために使われてきたわけでございますが,最近炭というのは,水質浄化とか,除湿剤,臭いとりとか,土壌改良材とか,そういったものに使えるようになったわけでして,まさに環境資材として,炭が変わってきたわけです。こういったものも,私はやはり環境林業に位置づけていいのではないかと考えています。まあ,炭の話につきましては,従来から私も提案をしておりまして,この研究会でも何回か,ハイテク炭焼き工場なるものを作って,炭焼きをしたいんだと申してきたわけです。何故炭が今すたれているかと申しますと,もともとそういう燃料として使われたのが,燃料革命以後使われなくなったということです。もっとも,今,日本で結構炭は使われているんです。ところが,日本の炭はあまり使われていません。なぜかといいますと,日曜日あたりにホームセンターへ行っていただくと大きな入口あたりに炭が積んでありますが,その炭の大部分,というより100%に近いんですが,これは東南アジアや中国から輸入された炭なのです。私もそこで値段を調べてみますと,大体1kgあたり,100円から120円あたりで売られているんです。で,日本の炭が大体400円から500円くらいかかるんです。私が3年前にこの里山研究会で炭焼きの提案をしたときは,外国の炭は200円くらい,日本の炭は300円くらいで,100円くらいの差だったんですが,今は極端に言えば4倍くらいの差になっています。

我々が日本の炭を使ってくれと言っても,現実として消費者は4倍もする炭を買わないだろうということで,やはり我々,生産をする側が,もっと日本の炭をコストダウンする必要があるんじゃないかということで考えたのがハイテク炭焼き工場です。従来のように真っ黒けになって,人の労力を必要とする炭焼きよりも,こういう大きな部屋をこしらえて,ボタンをひとつ押したら焼けるというような炭焼き工場を造る必要があると思います。これはそう難しいことでもありません。炭というのは大体800度くらいの高温で蒸し焼き状態にすればいいので,数億の研究費でもあったらできるんじゃないかなと思うんですが,まだ力がなくて,できるところまでいっておりません。

そういった中でたどりついたのが,後で説明をしていただくことになります「セラミック炭」と言う炭です。これは,従来の炭は燃えるもののイメージだったんですが,燃えない炭を造ろうということで,そのことによって,例えば先ほども言いました値段の比較をしますと,とても外国の炭とは争えませんので,全然違う炭を造ったら価格の比較にならないのではないかということです。それから,新しい用途が広がっていくんじゃないかということで,セラミックでコーティングをして焼いている炭というので,従来の炭は浮くんですが,その炭は沈みます。燃えるんですが,燃えません。燃やそうとすれば燃えるんですが,自分からは早急にもえたりしないと,いうようなことでございます。そういう時代と共に,やはりその形を変えていかないと,従来の炭焼きでは里山を救う手だてにはならないのじゃないかということです。

この話につきましては,明日,専門家の業者の方が来られますので,どっぷりと 聞いていただいたらと言うふうに考えています。

それから,里山を利用する環境林業の中で,シイタケの生産や,タケノコ,ナメコとかの特用林産物の生産,これも私はやっぱり環境林業に位置づけてもいいんじゃないかというふうに考えています。なぜならば,シイタケの生産でも,原木栽培でしたら,その原木を里山からとってきて,そこに菌を植えてするわけですから,それだけ里山が従来のような形で守られるわけです。それだけ環境に役だっているわけですから,これも環境林業と言っていいのじゃないかというふうに考えています。

先ほどもちょっと触れられていましたが,木力発電,木を燃やした発電をされるということですが,昭和40年代の後半にオイルショックがあった時代がありました。その時に林野庁も一時この研究にとりくみ出した時代がございました。木質エネルギーの開発調査ということで,ちょうどこの高槻市の樫田地区というのをターゲットに絞っていただいて,木質エネルギーの研究を大学の機関や林野庁からきていただいたことがあったわけなんですが,それも石油需要が良くなってしまいますと,その研究も風前の灯火になってしまって消えてしまったのを思い出しました。こういったものを,持続的に継続的に資源として活用できる産業でありますし,公害もでないわけでございまして,環境林業としては非常に有望でないかと思います。是非これについては私,推進をしていただきたいというふうに思っています。日本の里山は,継続的に持続的に活用できます。10年か15年,木を切っても里山というのは必ずよみがえります。これは,先人たちが何十年何百年と引き継がれてきた技術の中で証明されているのです。そういった中で,発電をする原材料としては,かなり有望じゃないかと思っています。ただ,原子力や石油のような主要な電力にはなりませんが,3000人ぐらいの村を守るローカルエネルギーとしては非常に有望だと思ってい ます。

それから,私がもうひとつ期待をしていることがあります。大阪や京都,東京でもそうですが,住宅の立て替え時期にきてまして,建築廃材がどんどん出ていて,それらが産業廃棄物としてどんどん燃やされています。そういったものも従来の里山の木材とあわせてやることできないだろうか。例えば,里山の木は仕入れで100円かかってエネルギーのコストに赤字が出るかもしれません。しかし,建築廃材というのは産廃として処分するのに非常な,例えば一台何万円というお金が現実にかかっております。そういったものをマイナスで仕入れて組み合わせることにより,山の赤字の部分を町の産廃物からプラスマイナスできるんじゃないかという方法を考えています。こういったことを森林組合がすることにより,マイナスの部分とプラスの面が,プラスマイナスできるんじゃないかということです。私はこの研究に非常な期待を寄せていたり,胸をわくわくさせているわけでございまして,ローカルなあれではございますが,ひとつそういう角度から,木力発電を進めていただきたいと思っておるようなわけでございます。悲しいかな,日本の林業機関でこういう木質エネルギーを研究している機関がないんですが,どこかでこういう研究をしていただきたいと考えています。

里山を守るひとつの手法で,環境林業というものをいろいろと提案をしてきたわけでございますが,やはり市民の方が,里山をどんどん利用していただかなくてはならないのではないかというふうに思っております。どんどん山に行っていただくと。従来の山というのは,人が来たりして荒されたりして困るということがあったわけですが,私は山にどんどん人に来ていただき,山にお金を落としていただく。山のあちこちに賽銭箱を置いておけばいいんじゃないかと思っているんですけども。まあ,賽銭箱もなかなか置けませんので,賽銭箱にかわる利用料を払ってもらうという施設とか,そういったものも環境林業に位置づけてもいいんじゃないかと思っています。

いろいろ話をさせていただいて,環境林業というのはまだ,私が言葉として使い出してまだ1年くらいしかたたない言葉でして,これといった定義がありません。大学の中でもまだ,環境とか,そういう森林とかいう学問で研究はしていただいてるようですが,環境林業として勉強をしていただいてる講座などはないように思っておりまして,できたらどこかの大学で,こういう環境林業の勉強をしていただく先生ができていただいたらありがたいというふうに思っているわけです。

時間の関係もありますので,あまり長いこともお話できないわけですが,結論をいいますと,里山というのはお金がかかります。維持していくには,誰かがそのお金を負担しなくてはなりません。そこで,森林を守っている,我々森林組合が,例えばお金をもうけてその里山を守っていくことが必要じゃないかということで,我々としては,手法を選ばないということはありませんが,できるだけ,何らかの形でお金をもうけようとして,山の方へ還元をしていく方法を考えていきたい。モノののリサイクルでなく,お金のリサイクルも考えて,町の側から山の方へ還元するリサイクルの方法を考えていかないと,里山が守れないんじゃないかというふうに考えています。

私はあちこちで申し上げています。私たちの時代は中継ぎの時代だと。といいますのも,日本の林業は良い時代がありました。昭和30年代は木を切ったら,田を一反くらい買える時代がありました。そういった時代から,今は非常にしんどい時代です。世の中というのはまわりがありまして,良い時代があればしんどい時代もあるのです。林業もその波があって,今はしんどい時代なんですが,やはり今,私たちがこの時代をつないでおかないことには,次の時代は来ないと思いますので,私たちは必死になっていろんなことをしながら,次の時代につないでいきたいというふうに考えているわけでございます。高槻市の森林組合では,皆様の資料の中にも載せていただきましたが,森林林業士を養成したりしながら,次の時代の林業をつないでくれるプロを養成しています。そういったものが,私たちの意思を継いで,何十年,何百年先までも,森林を守ってくれることを期待しているわけです。

そういったことで,私達プロと皆様方市民が,共に手を合わせて,力をあわせて,この里山を守っていく必要があるんじゃないかと思っています。そのときには環境林業が展開をされていくのではないかと思っています。

わかりにくい発表ではありましたが,皆様方の熱いご意見を聞かせていただいて,進めていきたいと思います。ありがとうございました。


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