さとやま

里山研究会ニュースレター
第13号
1997年6月9日発行


第4回 里山ワークショップ

「里山を誰がどのようにして守るのか」

1997年7月5-6日

京都大学

「里山の自然」の刊行を機に私たちの目指す里山林管理について森林組合などの実務家,市民,研究者が集まって,「里山林を誰がどう保全するか」について忌憚のない意見交換をしたいと思います.私たちの基本的な立場は,今放棄されている膨大な面積の里山林を新しい視点で利用することによってどう甦らせるかにあります.今回のワークショップの柱は,「新しい林業観の提出(コモンズとしての里山林,環境林業など)」「まったく新しい炭焼きの技術と熱電併給ミニ発電で里山管理を」「たもかくの手法をもっと里山管理に生かせないか」の3つです.今回は森林組合の知恵者にも参加をお願いしています.すごくエキサイティングなワークショップになると思います.いや,すごくエキサイティングなワークショップにしましょう.今回は総合討論に一日かけて,徹底的な討論をします.そしてエキスカーションはもっとエキサイティングです.

7月5日(土) 10:00-12:00 13:00-17:00
場所: 京都大学楽友会館(地図参照)
参加費: 資料代として1000円

第1部「新しい林業観と里山」

私たちの問題提起田端英雄(京大生態学研究センター・里山研究会)
環境林業の提案氏原 修(高槻市森林組合)
昔からの里山管理を見直す—マツタケ山をつくる— 吉村文彦(岩手県岩泉町マツタケ研究所)
広葉樹林業のすすめ北尾邦伸(島根大・生物資源科学部)

第2部「夢の里山管理の実現に向けて」

「全国に熱電併給の木質ミニ発電所を作って里山を甦らせる」
木質系ミニ火力発電所を全国に2000つくろう山下忠雄(岡山県・真庭地区木材組合)
廃材をつかった熱電併給の発電所中島浩一郎(岡山県・銘建工業株式会社)
里山林は発電で甦る小池浩一郎(島根大・生物資源科学部)
「燃えない炭の生産で里山を甦らせる」
「燃えない炭」氏原 修(高槻市森林組合)

第3部「たもかくの手法をもっと里山管理に生かせないか」

「たもかく」の目指すもの吉津耕一(たもかく)
「たもかく」との提携で目指しているもの井伊野雄一(赤目の森)

7月6日(日) 10:00-12:00 13:00-17:00
場所: 京大理学部2号館大講義室(地図参照)

コメント

森林組合の悩み岡田一郎(宮津地方森林組合)
広葉樹林をつくる新屋 薫(松阪市森林組合)
森林組合の立場から内木篤志(岐阜県・加子母村森林組合)
兵庫県の里山行政打浪久淳(兵庫県庁)
総合討論

すごくエキサイティングなエクスカーションに参加してください
7月7日(月) 小型バスで7:00京都発 17:30頃松山で解散
費用: バス料金として実費を6000円程度

「岡山県勝山町の「銘建工業株式会社」の175kwhの木質火力発電所見学したあと,四国に渡り松山市の「鶴居産業」と「愛媛合板」の1800kWhの日本最大の木質火力発電所を見学します.松山市で解散します.

木を燃やす熱電併給システムでほんとうに里山が甦るかなんて疑問視する方にぜひ参加してもらいたい.すごい興奮です.乞うご期待.行政の人,森林組合の人を誘ってください.

エクスカーションに参加希望の方は,下記まで6月27日までにご連絡ください.

    606-01  京都市左京区北白川西町
             京都大学生態学研究センター  田端英雄(Fax: 075-753-4253)

    612   京都市伏見区深草永井長太郎官有地
             森林総合研究所関西支所  伊東宏樹(Fax: 075-611-1207)

自動車で参加予定は方は,駐車場をお知らせしますから,上記二人にご連絡ください.

<会場までの交通>(地図参照)

[地図]


「里山の自然」(保育社)発刊

—いろんな形で利用して,ご意見を「さとやま」に投稿してください—

私たちが1992年9月に里山研究会をつくってから,あしかけ5年になりました.この間,里山研究会のワークショップや講演会・研究会を開催して,多くの市民,研究者,実務家の方々に支援していただきました.大学や研究所の枠を越えた人の参加によって調査研究活動をすすめるにあたって,日本生命財団による研究助成,全労済による活動助成をうけることができたことが支えになりました.アイソザイムを用いた里山の植物の集団の遺伝的多様性に関する研究をたちあげることができたのもこれらの研究助成金のお陰でした.まったく研究費を持たずにスタートしただけに,これらの助成金によってどれだけ励まされたかしれません.里山研究を大学や研究機関の研究に閉じこめることなく,開かれた里山研究を目指して模索していた里山研究会の活動の初期において支援をいただいた森主一先生(元京大・滋賀大)の励ましを忘れることができません.さらに,私たちの活動の趣旨に賛同して,最初のワークショップにはせ参じてくださった皆さんのご協力をいただいたことはほんとうにうれしいことでした.このほかにも研究会・講演会の度毎に多くの方々にご協力いただきました.新聞や放送などのメディアの方々にもお礼をいわなければならないと思います.里山問題の意義を理解したいただき,さまざまな形で支援したいただきました.とくにNHK国際放送で放送されたときに多くの国々から意外に大きな反響があったことが,里山問題を国際的な視点で考える契機にもなり,中国,韓国,ネパールからの参加者を迎えて1994年12月9-11日に京都府京北町で開催した第6回京都国際セミナー「安定社会—里山とその自然の持続的利用—」につながりました.この国際セミナーは京都府ゼミナールハウスの事業ですが,里山研究会の国際セミナーとして位置づけて取り組んだもので,日本の里山の状況は何年後かのアジアの国々の Satoyama の問題であるという認識を強くするとともに,国際的な視点の大切さを知ることになりました.この時の外国からの参加者からの強い連帯の表明は感激的でした.

里山が破壊されるなかで,これでいいのかと考えたのがきっかけで,研究者だけでなく市民といっしょに里山を総合的に考え,必要なら社会的な活動もするということで里山研究会を組織しました.幸い多くの方々のご協力をえて,大学の枠を越えた研究活動を4年間続けることができました.まだまだ明らかにしなければならないこともたくさんあるうえに,すべての研究が今進行中です.後2-3年するともう少しはっきりと保全の手法についての提案ができるようになると考えています.私たちの里山研究の体制はきわめて不十分で力不足ですが,それでもこの4年半で方向は見えてきたように思っています.里山の現状を考えるとき,この3年半(昨年の3月から「里山の自然」の執筆を始めたので)に明らかになったことをふまえて,里山をどうするのかということに関して現段階での私たちの考えを広く知っていただき,里山をどうするのかについて広く討論を呼びかけることが必要だと考えました.私たちはそれほど里山問題は,緊急を要すると考えているのです.もうあと数年もすれば,伝統的な里山の管理技術の継承もできなくなるという危機感もあります.そこで里山研究会の共同研究を進めてきた仲間と今までに里山研究会を通して知り合った仲間の協力をえて,保育社から「里山の自然」を出版しました.里山研究会に協力いただいた方々の成果を含めて,私たちの里山研究会がこの4年半にやってきたことの現段階でのまとめです.里山の自然の特性」をふまえて「里山の保全を誰がどうやるのか」ということについて書いてみました.素手で始めた私たちの里山研究会がたどり着いた現段階の結論です.

<お願い>

「日本の自然を誰がどのように守るのか」が私たちの課題です.この膨大に広がる里山を新しい里山管理の手法で甦らせたいというのが,このほんのテーマです.ぜひ読んでいただき,周辺の人たちと,あるいは行政の人たちと,あるいは森林組合の人たちと,話し合ってみてください.そしてご意見をお寄せください.次の世代に豊かな日本の自然を伝えるためにも,いま,私たちが何をすべきか.いたるところで討論を巻き起こしてください.そのためにこの本が資料として少しでも役立つことができるならば本当にうれしいと思っています.賛成意見,反対意見はもとより,私たちの知らないところで行われている新しい里山保全の試みなどについての情報を是非お寄せください.

広く討論をまき起こし,今の農業を変え,林業を変える力の結集にむけて,私たちの研究会もささやかな努力をしたいと思っています.パンフレットを同封しますから,周辺の方々や大小を問わず里山問題に関心を持っているミニコミ,マスコミ等にもご紹介ください.必要なら献本も考えます.会員の皆さんが何冊かまとめてくださるならば,購入に際して近くの著者にご連絡ください.連絡は下記でも結構です.

        606-01  京都市左京区北白川西町
                  京都大学生態学研究センター
                             田  端  英  雄(Fax: 075-753-4253)

(田端)


中国里山紀行 (2)

田端英雄

翌日(1996年8月15日)は本格的な草甸が見られるという.いったいどんな植生や植物と出会えるのか,いろいろ想像して朝から結構楽しんだ.カメラ,フィルムのチェックをすませてジープに乗り込んで宿舎をでた.すぐにジープは止まって,案内の土地局の人が降りて道ばたのスイカ売りから細長い大きなスイカを買い込んだ.そしてジープは一路北に向かった.内蒙古というのに,以外にも水田が広がっている.聞くと近年政府によって水田がずいぶん開かれているという.畑よりも水田の方が,水で塩が流されるので塩がたまらなくていいという.

パーフタラという地域で,幹線道路からそれて数軒の集落があるとこへ向かった.ところが内蒙古は8月雨期なので,あちこちで幅が数十メートルを越すような水たまりができて,先に進めない.そこでしかたなし周辺を見てまわることにした.ここではじめて,本格的な草甸に降り立った.何か小さな黄色い花が見えたから,まず Pinus sylvestris (ヨーロッパアカマツ)が数十本まばらに生えているところへいってみた.黄色い花は, Taraxacum mongolicum (タンポポの仲間)であった.見ると点々と Iris ensata (ノハナショウブ)の大きな株がある.横を見ると多肉植物が何種かある. Suaeda corniculata (マツナの仲間), サクラソウ科の海浜植物 Glaux maritima (ウミミドリ)などの塩生植物である.南さんによれば,周辺にある Hordeum brevisublatum (オオムギの仲間),Puccinellia tenuiflora (チシマドジョウツナギの仲間), Chloris vilgata (オビゲシバ),Bassia dasyphylla (葉が鱗片のように細くなったアカザ科の植物),イソマツの仲間の Limonium bicolorThalictrum squalosum (カラマツソウの仲間),オヤマノエンドウの仲間の Oxytropis myriophylla は皆,多肉植物とともにアルカリ土壌のところに生育するアルカリ土植物だという.確かにこれらの植物があるところは植物がまばらな感じで土の表面が白っぽい.pH が9から10であるという.驚いたのはここに草丈20-30 cmの貧弱なヨシが疎生していることである.土壌は砂質ないしはシルト質で粘っこい. Artemisia frigidaA. anethifolia などヨモギも結構ある.淡黄色の花をつける Linaria vulgaris (ウンランの仲間)があって,ネナシカズラの仲間の Cuscuta chinensis がツルを伸ばしている.

すぐ横には小さな砂の丘があり,ヒマラヤ以来おめにかかったことのないマメ科のCaragana がブッシュになっている. Caragana microphylla である.南さんによると,固定砂丘が壊れたところには,この Caragana だけが生育するという.見るとヤナギの低木もある.ヤナギには2種あって枝が黄色い Salix flavida (黄柳)と枝が赤い S. microstachya (小紅柳).南さんによれば,「黄柳は低地で生まれ,移動砂丘で育ち,固定砂丘で死ぬ」といわれているという.今いるのは固定砂丘だから,まだ元気そうだがそろそろ黄柳は死に向かうのであろうか.

ワレモコウ発見!

今回の内蒙古の旅は,一昨年の秋,私たちの調査地である京田辺市打田の棚田の畦にワレモコウが咲いているのを見て,京大理学部植物学教室の初代の分類学の教授であった小泉先生が満鮮要素と名付けた一群の植物の生息場所に興味を持ったのがきっかけで実現した.文献で満鮮要素の故郷探しをしてみたところ,中国東北部の草甸そうでんという植生が故郷らしいことがわかってきた.たまたま瀋陽で学会が開かれるのを機に,内蒙古にやってきたのであるから,40-50cmの草丈のヨシが散生する中に草丈90cmから1m位のワレモコウを自動車の中から発見したときにはほんとうに興奮した.喜ぶ私を見て,案内してくれた応用生態研究所のプー(布)さんも目指す植物が見つかってよかったといっていっしょに喜んでくれた.

ワレモコウを見てからもあちこちで止まりながら,私と南さんが乗ったジープはゆっくりと走った.プーさんが乗ったジープは止まらずに先行した.しばらくして私たちははぐれたことに気がついた.道沿いにあった一軒家の人たちに聞いても他のジープを見ていないという.草本植物だけからなる植被が大きなスケールの波状地形を覆っているなかで,ゴマ粒のようなジープを探すのは想像以上に難しく,プーさんが乗ったジープは見つからなかった.しかたないので,南さんと私は別行動をすることにした.結果的にはプーさんが波状地形の谷間で採集してきたよく育ったクララ,草丈1.5mもあるヒゴタイの仲間の Echinops gmelini ,ノブドウの仲間の Ampelopsis aconitifolia などは見れなかったが,日本とのつながり考える上で興味ある植物をたくさん見つけることができた.何しろ広いので目の焦点がうまくあわないのか,近くにある植物でもなかなか見つけにくい.それでも300m四方ほどのところをくまなく歩いてみた.すると,ワレモコウだけでなく,日本では,やや高地の湿地にある Aster tataricum (シオン),山間の湿地にある Inula britanica (ミズギク),以前は畦などにもあったが最近日本ではめっきり少なくなった Hemarthria sibirica (ウシノシッペイ),ツリガネニンジンに似る Adenophora tetraphylla ,川原にある Potentilla chinensis (カワラサイコ)をはじめ, Aster fastigiatus (ヒメシオン), Sium suave var. angustifolium(ヌマゼリ), Miscanthus sinensis (ススキ), Lythrum salicaria (エゾミソハギ), Saussurea (トウヒレンの仲間)が2種, Bupleurum scorzonerifolium (ミシマサイコ),それに塩生植物の Triglochin palustre (ホソバノシバナ)や Glaux maritimaSuaeda などなど.カモメヅル属の Cynanchum amplexicauleC. sibiricumAsparagus gilbus(キジカクシの仲間), Thermopsis lanceolata (センダイハギの仲間),スゲ科の Pycreus,さらにイネ科の Calamagrostis pseudophragmitesC. epigeios,畑からの侵入と思われるエノコログサ.それにスゲはたくさんあるが花期でないために同定は不可能.塩が析出しているところでは,中心には何も生育していなくて中心から同心円をなして植物が分布する.もっとも塩濃度の高いところに Suaeda corniculata が,次に Artemisia anethifolia が,そしてその次に Puccinellia tenuifolia が生育している.

8月16日カンチーカから瀋陽への帰路でも,あちこち寄り道をして草甸をみた.草甸という植生はずいぶん環境条件に幅があって,この日に見た草甸はやや乾燥していて乾いた砂浜を歩いているように歩きにくい.植物もこれまで見た草甸のものとかなり違っていた.そして草丈は大き苦背丈を超すような草本や低木(といってもヨモギのような変な低木である)背丈の低い地表植物など生育型が多様になり,階層構造があるわけではないが,明らかに違った階層のものがあって,昨日までのいわば単調な植物群集とは較べようもなく楽しい.

まず驚かされたのは背丈をこえるようなサイズになるヨモギの仲間 Arttemisia holodendronA. sieversianaSenecio argunensis (キオンの仲間), Leonurus sibiricus (メハジキの仲間), AsparagusThalictrum squarrosumDelphinium grangiflorum (オダマキの仲間),ツルにならない Clematis hexapeta (センニンソウの仲間),真っ赤なりんごのような直径3cmのみをつけている高さ15cmほどの Prunus humilis (サクラの仲間),もっとも乾燥した砂地のものといわれる Polygonum divaricatum (タデの仲間),小さな赤い実をつけている乾燥地帯の指標植物でもある Ephedra,時には救荒植物になるという砂丘の植物 Agriophyllum squarrosum,地面を見れば地をはう Thymus (イブキジャコウソウの仲間)やカワラサイコ,背丈の高い植物に巻き付いているツル植物 Incarvillea sinensis がピンクの花を咲かせている,Vicia (ソラマメの仲間) もアブラナ科の CardamineInula britanica もみられる.ほかにもわけのわからない植物が結構ある.今になっても思い出せない植物もあって,もう10カ月もたっているのにいまだに内蒙古の旅を楽しんでいる.

草甸の旅はほんとうに楽しいものであった.草甸と一口でいってもじつにひろい生育条件をそこにはあるということが理解できた.草甸から日本の植物相や植生を見ると,日本の川原や畦や湿地や森林などさまざまなところに生育するものが草甸にはあることがわかる.これは,かつて最終氷期に日本にも草甸があって,氷期が終わって温暖化,湿潤化するなかで草甸の植物が川原や畦や湿地や森林や茅場のような草地などに生育地を求めたと考えるとすべてがよく理解できるような気がした.

実に短い時間にきわめて能率のよい旅ができたのは,内蒙古人のプーさんのお陰である.彼ががすべてのお膳立てをやってくれた.ここに記して感謝したい.


ホームページURL変更のお知らせ

里山研究会のホームページを置いているプロバイダのサーバ更新にともないまして,URLが変更になりました.新しいURLは,
http://www02.so-net.ne.jp/~ito-hi/satoyama/
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随時,最新の情報を提供しておりますので,ひきつづき多数のアクセスをお願いいたします.

里山文献情報をお願いします

里山研究会では,里山に関する文献データベースを収集しています.二次林や身近な自然・そこに生きる生物など里山に関する単行本・雑誌記事・研究論文などの情報を求めます.

なお,現在までに収集したデータはインターネットのWWWにて公開しています.URLは,
http://www02.so-net.ne.jp/~ito-hi/satoyama/bunken.html
です.よろしくお願いいたします.

投稿をお待ちしております

「里山」では,皆様からの投稿をお待ちしております.意見・質問・おぼえがき・身近な自然の話題など何でもかまいません.また,里山に関する文献の情報もお待ちしておりますので,よろしくお願いします.

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なお,郵便振替口座を開設しておりますので,ご利用ください.口座番号は,01030-2-11462,加入者名「里山研究会」です.

また,経費節減のため,原則として領収書は発行いたしておりません.とくにご入り用の方はその旨おしらせください.

訂正とお詫び

第12号標題の号数が第11号と誤っていました.お詫びして訂正します.