さとやま

里山研究会ニュースレター
第12号
1996年11月10日発行

第3回ワークショップを開催しました

  • インターネットWWWホームページを開設しました
  • 全労済の助成決まる
  • 第3回ワークショップ報告
  • 中国里山紀行(1)—中国で草甸と日本の植物に初めて出会う—(田端英雄)
  • 受け入れ資料
  • 1995年度 里山研究会会計報告

  • 第3回ワークショップを開催しました

    さる5月11日・12日の両日,高槻森林観光センターにおきまして,第3回里山研究会ワークショップ「里山管理と炭焼き」を開催しました.概要を,2ページ以降で紹介しております.

    インターネットWWWホームページを開設しました.

    インターネットのWWWホームページを開設しました.内容としまして,ニュースレターバックナンバー・里山関連文献・環境関連法令集・里山の生物の写真などを取りそろえております.ニュースレターの発行は遅れがちですが,こちらの方は随時情報を更新しております.URLは,http://ux01.so-net.ne.jp/~ito-hi/satoyama/です.たくさんのアクセスをお待ちいたしております.

    全労済の助成決まる

    里山保全に関する研究会の開催と,「いま,里山をどうするか」(仮題) といった誰にでもわかる「里山の保全入門」ともいえるようなパンフレットをつくって,各地方自治体の関係部局に配布するというプロジェクトに対して,全労済の助成が決まりました.パンフレットに関しては,里山研究会のメンバーを中心に現在取り組んでいる保育社のエコロジーシリーズ「里山」が来年そうそうに出版される予定ですので,この本の執筆内容を下敷きにして,さらにわかりやすく読める工夫をして,来年の10月までに完成させる計画です.


    第3回ワークショップ報告

    5月11・12日の両日,第3回里山ワークショップが,高槻市森林組合が経営する森林観光センターにて泊まり込みで開催された.参加者は多くなかったが,島根大学からの参加者,大阪や神戸からの参加者を含めて約30名が参加した.まず,今回のワークショップは,茨城県の真壁町から来ていただいた桜井さんの指導で,ふせ焼き(簡単な炭焼きの方法)の実習から始まった.今回は,単にふせ焼きの実習というのではなく,鑑賞炭をつくるのも目的のひとつであった.地面を掘って炭材を並べ,鑑賞炭の材料を採集して缶に詰めて炭材の上にこれを置き,トタンをかぶせて土を乗せ,火の管理を行ない,火が安定した段階でエクスカーションに出かけた.高槻市森林組合が里山を守るために行なっている事業の一部を参観した.神峰山寺の所有林の管理を森林組合が引き受けるのだが,管理にはお金が必要である.そこで蘭園を開設して市民に公開して,入場料収入やエビネの販売収入でその管理費用を捻出しようというのである.これは見事に成功していて,高槻市森林組合の独創的ないろいろな試みに過ぎないが,参加者一同感心させられた.高槻市森林組合は里山は市民に参加してもらって守っていくという趣旨のもとに,いろいろな事業を展開している.市民参加といってもただ山に来てもらってお金をもらうというのでなく,シイタケ園では実際にシイタケを採ってもらったり,木工教室に参加してもらったり,炭焼きに参加してもらったり,道具で遊んでもらったりしてお金を払ってもらい,その収入を森林の保全事業に投入するというわけである.里山研究会が高槻の試みに多大の関心を持っているのもこの点になる.

    さて,夕食後講演会をはじめて,終わったのは夜も更けて11時過ぎであった.さらにこの後,炭焼きの火の管理のために窯の周りで桜井さんの指導を受けた.

    翌日も朝早くから火の管理をしながら,9時からエクスカーションに出かけた.田圃の畦やこの地方特有のクヌギやコナラの萌芽林業の名残が見られるところを見てまわった.本格的な炭焼き窯の見学もした.ここの田圃の畦でも私たちが田辺町の調査地で注目している植物のひとつであるニワフジを見つけた.ニワフジは,岸壁などにある植物ではなくて,どうも畦のようなハビタットのものらしい.エクスカーションから帰って,炭出しが始まった.緊張したが見事な炭とこれまた見事な鑑賞炭ができ上がった.松ぼっくりはいうに及ばず,松葉もレンコンもナンテンも見事な鑑賞炭になった.鑑賞炭や炭を手に家路についた.

    すばらしいワークショップを開催できたのも,高槻市森林組合の氏原さんをはじめ,現場で炭材の準備などをしていただいた森林組合の方々のご協力のおかげである.ここでお礼を申し上げたい.

    (田端)

    講演要旨

    この講演要旨は,当日の講演の内容を編集部でまとめたものです.

    「この研究会開催の意図」

    田端英雄(京大生態学研究センター)

    里山の管理はさまざまな林齢の林がモザイク状に配置するようにしたい.如何にしたらそういった管理が可能なのか.後からお話するように,私たちの身の回りから多くの生物が姿を消しつつある.日本にある植物の5種に1種が絶滅に瀕しているという状況を,心配する必要がないのかどうか.現在の生態学は5分の1の植物が絶滅してもなんら心配がないのかどうかに関して答えを持ち合わせていない.しかし私は今この状況を改善するために,何かをしないといけないと思っている.それが里山の保全である.そのためには里山に手を加えなければならない.山持ちが以前と同じ管理をすることができなくなっている以上,異なった方法で里山管理をしなければならない.それは何なのか.私はこういった観点から,里山管理の手法として,炭焼きにたいへん思い入れがある.この里山研究会でも炭焼きを何度も取り上げてきた.第1回の研究会では,京都の田辺町で木炭生産組合を作られた南さんに話していただいた.しかし,小規模な炭焼きはどうも里山管理には結びつかないようだ.炭材が大きくなって,コナラ2〜3本で窯がいっぱいになってしまう.だから,こういった炭焼きは里山の管理という観点からは意味を持たない.やはりある程度の面積を伐るような炭焼きでないとダメである.

    氏原さんも木炭生産の復活を新しい観点から考えておられる.大規模な炭焼き窯をつくって価格の点で外国炭に負けない炭焼きができれば,里山の管理にもなるという夢をお持ちである.この夢がどこまで実現に近づいているか,今日はおうかがいしたい.小池さんには新しい観点から炭焼きについてお話をうかがいたい.先ほどからうかがうと炭を焼くのもガスを作って発電するのも同じだというような話をしておられる.どんな話になるのか楽しみである.さらに,遠く茨城県から桜井さんに鑑賞炭づくりに来ていただいたので,桜井さんにもお話をうかがいたい.

    「里山の生物学的特性」

    田端英雄(京大生態学研究センター)

    里山の生物学的な特性はまだよくわかっていない.しかし,ここ3年ほどの調査で少しずつわかってきた.ここで簡単に里山林の植物相のことと,最近気がついた田圃の畦の植物相についてお話ししたい.

    コナラ林もアカマツ林もその構成は朝鮮半島の林に非常によく似ている.主な構成種の分布域は朝鮮半島,中国東北部,アムール,ダフリー地方である.一方,常緑広葉樹林の構成種は中国中南部から東南アジアに繋がりを持っているものが圧倒的に多い.

    私たちは山間の田圃や田圃の畦,ため池,用水路と里山林を合わせて里山といっている.ここ10数年私はキキョウを見たことがない.リンドウも少なくなっている.このような草本植物はどうも畦や里山林と田圃の間にある草を刈ったところなんかに生育していたものらしい.皮肉なことに,キキョウがたくさんあるところは私の知る限り,祝園(京都府精華町)の自衛隊の弾薬庫内である.そこでは適切な時期に草刈をしているから残っているのだろう.田圃の畦は細いけれども連続していて,膨大な面積を占める湿性の草地である.ここの植生はまったくと言っていいほど調べられていない.しかし,ここの植物相はどうも中国東北部の草地の植物相にきわめて似ている.里山林の植物相,畦の植物相を合わせて考えると,最終氷期に日本にあった森林や草地の構成メンバーが今も里山や畦に残っていると考えるのが合理的だと思うようになった.この夏に内蒙古の草地をたずねて,調べようと思っている(別項の中国里山紀行参照).

    里山管理の放棄,山間の水田の放棄によって,里山に生育するごく身近な植物が絶滅しつつある.では,どのようにすればいいのか.放棄された水田の耕作によって畦の植物を再生させ,里山を新たな手法で再生させ,日本の自然を蘇らせる必要がある. こういった観点から畦や里山林を見直したいと思い,明日午前中のエクスカーションを計画した.

    「炭焼きの新しい可能性を求めて」

    小池浩一郎(島根大学)

    スウェーデンでは木材ガスで発電するSVEBIOという計画がすすんでいる.スウェーデンでは電力の50%が水力発電,あとの50%が原子力発電によるものだった.原子力発電の廃止が決定され,その代替エネルギー源として木材エネルギーが考えられている.

    里山=旧薪炭林(+農用林),と考えている.旧薪炭林の面積は1960年代にピークとなり,その面積は約500万haになった.

    木材をガス化して利用する.これは,戦中・戦後の代用燃料の時代には一般的なことだった.

    天然ガスの発電効率は,発電段階での効率が40%で,60%が廃熱になる.さらに消費地に届くまでに5%が廃熱となり,最終的には,発電した電力の35%だけが消費地に届く.

    一方,熱電併給(コージェネレーション)では,発生した熱の30%が電気として,55%が熱(冷熱を含む)として供給され,廃熱となるのは15%である.

    コージェネレーションはエネルギー効率が良いが,電力独占が普及の妨げとなっている.ヨーロッパでは自治体が設備を持っている.

    次に,太陽電池についてみてみると,太陽電池の発電コストは800円/Wだが,採算点は150円/Wであり,採算点よりもかなり高い.

    植物と太陽電池とを比較してみる.植物の変換効率は1〜2%.太陽電池の変換効率は2%.植物のエネルギーは,化学エネルギーとして蓄えられ,炭やガスとなる.発電量は,面積×時間に比例するが,太陽電池はバッテリーに蓄えるという形で時間を濃縮する.一方,植物の場合は自動的に蓄積される.

    現在の木炭生産は,その用途が燃料から,土壌改良資材などの材料へと変化している.

    ブラジルでは,木材をガス化してガスタービンで発電するというプラントができている.

    質問:なぜ日本で小規模発電が広がらないのか?

    小池:自治体や住民の意識が低い.自分のことは自分で処理するという意識が低い.また,電力独占もその原因のひとつである.

    質問:林の面積と発電設備についてはどうか?

    小池:1000kW分界点というものがある.1000kW以上ならばガスタービンが有利だし,以下ならばオットー(レシプロ)エンジンが有利となる.森林に見あった規模の生産で良い.


    「大規模炭焼き窯の実現に向けて」

    氏原修(高槻市森林組合)

    高槻市森林組合の植栽林の管理をし,里山を守る活動についてお話ししたい.高槻市の森林をデベロッパーの手に渡さず,市民参加で守るために,高槻市には森林銀行制度がある.市民参加とは市民にお金を出してもらうことである.そのお金で森林組合というプロ集団が林を守る.林家が手放したいときには,高槻市が設立した森林銀行制度を活用して一時森林銀行が管理して,林として維持してくれる人に斡旋する.

    市民にお金を出してもらうのは森林銀行ばかりではない.いろいろな施設を作ってそれを利用してもらって得た収入を林の管理に使って林を守る.里山を守るのにはお金がかかる.林家からお金を取って施業するのは現実的でない.いろいろな補助金と,こういったリクリエーション施設などからの収益から残りの一割を補填すれば林家の負担無しで林を管理できる.お金を出さずに,枝打ちしてくれたり,下刈りしてくれたり,複相林の天然林整備をしてくれるなら林家は文句を言わない.森林組合主導で林の施業計画を立ててやっている.この森林観光センターは,昭和52年に構造改善事業の補助金で設立した.高槻市の里山はこういうふうに守っていきたいと思っている.いま林業は厳しいので,無理して木を売るよりも,次の時代の人に送るために辛抱する時代だと思っている.

    炭焼きにも多大な関心を持っていて,文献をあたって研究を続けている.外国炭(150円/kg)に日本炭(3000円/kg)は対抗できない.そこで大規模なハイテク炭を模索している.その中で,K社の協力のもとに燃えない炭というものを開発して,ほぼ完成間近になった.それはセラミック炭といって,細かい炭材を特殊なセラミック材料でコーティングして炉を通し,燃えない炭を作るものである.「燃えない炭」という発想がすばらしい.値段も180円/kgでいける見通しもついた.一次産業はいつも,新しいものを開発しても用途を開発できないで失敗しているので,今,脱臭剤・断熱材・活性炭など新しい用途の開発を始めている.数年後にはスーパーの店頭で売れるようにしたい.この事業展開ができれば,里山の問題はどんどん解決するのではないかと思う.小池さんの「木炭は2度働く」という論文はたいへんおもしろい.小池先生の小規模発電をここでも考えたい.

    司会:小池さん何か?

    小池:お湯を沸かすつもりで電気を発電するというように考えればいい.炭の利用に関して,浄化槽に入れると半永久的に使えるかというと,流通関係の方は興味を示さない(笑).


    「なぜ炭を焼いているか」

    桜井崇(茨城県真壁町御所駒岳神社)

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    本業は炭焼きでなく神主.山を守らなくてはならない,水を守らなくてはならないというので,炭を焼くようになった.今,あちこちでキャンプをして子供たちに炭焼きを教えたり,登校拒否の子供に炭焼きを教えて学校に戻したりしている.

    宇宙飛行をしたTBSの秋山さんや,ルバング島から帰ってきた小野田さんと環境問題を考える自然塾というのを7年前から始めた.君津農林高校の鶴見先生や,炭焼き銀治といわれる杉浦銀治先生にも教えを受け,今も炭を焼いている.

    千年の森づくりを「大自然の中で自由闊達に遊び,自然のすばらしさを感じ,人とのふれあいの喜びを感じあえる場を作りたい.21世紀の担い手は自然とともに生きることが求められている.未知なる自然について学んでいこう.千年の歴史に感謝し,次世代を担う子供たちへの贈り物となるように,そして千年先の文化遺産となるように,千年の森を提唱する」という趣旨で5年前からやっている.森の清掃活動,米作り,植物の調査,キノコ狩り,炭焼きなどの活動をしている.炭は,脱臭剤,防湿剤,枕の材料にもなる.

    鎮守の森の社会的役割を考えたい.全国で神社が8万5000,寺が7万3000あって,ほとんどが森林を持っている.寺社林がいかに大事であるかということに神主と坊さんが目覚めれば日本を動かせると思う.今年は宮沢賢治生誕百年にあたりますが,賢治は「山が滅びれば川が滅び,川が滅びれば海が滅び,海が滅びれば人が滅ぶ」といっている.私は山が基本だと思っている.50年近く前に襟裳岬では魚が捕れなくなって植林をしたという有名な話がある.気仙沼でカキの養殖をしている畠山さんは,大漁旗を持って山に植林に行っている.「山は海の恋人」という本もだしている.どこか宮沢賢治につながっているように思う.

    年一回社報を出して「まだ遅くない.森を再生しよう.森の中から真の文明を取り出し豊かな生活と文化を見つけよう.森の中で人間の暮らしの原点を見つけて,森と共生していこう」と提案している.里山を再生し保護することは人間の基本だと考える.

    司会:鑑賞炭は桜井さんが初めてつくられたのですか.

    桜井:いいえ.岩手県で自然塾キャンプがあって,君津農林高校の鶴見先生がこんな物もできるというので松ぼっくりで始めた.しかし,生き物すべて炭素からなりたっているのだからすべて炭になるというので,いろいろな物を試みるようになった.


    中国里山紀行(1)

    —中国で草甸と日本の植物に初めて出会う—

    田端英雄(京都大学生態学研究センター)

    今回の中国行きは,瀋陽 (旧満州の奉天) で8月22日〜29日まで開催された国際シンポジウム「資源,環境,持続的発展」に出席するついでに,里山特に内蒙古の草甸を訪ねて日本の田圃の畦に生育する植物はいったいどんな環境にどのように成育しているのかを見てくることに主な目的があった. ここ1年ばかり,畦の植物の変な生態を見ていて,ひょっとしたらこれらは中国の草地にあるのではないかと考えるようになった. そして文献をあたり始めると,草甸という植生の構成メンバーが畦の植生に似ていることに気がついた. いったい草甸とはどんな植生なのか.文献で同じ植物が生息しているというだけではどうも納得がいかないから,行ってみなくてはどうにもならないと思うようになった. 中国植被図で見れば,瀋陽から内蒙古まではそんなに遠くない. そこで中国科学院の応用生態学研究所の Xiao Duning さんに連絡をとってみた. すると,私があげた植物の90%が見られるところが内蒙古にある. 近いところならその約50%が見れるという. さっそく,内蒙古へ行きたい旨の返事を書いた. すると折り返し,Xiao さんの景観生態学研究室に内蒙古大学の草原学部出身の Bu Rencan (布仁倉)さんがいるので案内できるという返事が来た. 私は興奮してさっそくいろんな準備に取りかかった.それが4月の中旬のことであった.

    まずエージェントに連絡して,北京を経由するとして,北京から瀋陽までの航空券の予約がうまくできるかどうか調べてみると,うまく行きそうである. 次に,宿をどうするか. Lonely Planet の China でまあまあのところを調べて電話すると英語が通じない. 3つ目に遼寧賓館でようやく予約ができた.費用の交渉もすんで,中国植被,内蒙古植被,中国自然地理,植被図などの文献のコピーもすみ,採集ができるかどうかはわからないが採集道具もいろいろ工夫をして準備は整った.

    8月12日10時過ぎ,関空から北京に向かう. 北京には予定より早くつく. 瀋陽への飛行機が夜の8:50なので,空港バスで北京の市内へ向かう. バス代は片道 12Yuan (日本円で165円). 途中,Pinus (マツ属),Populus (ハコヤナギ属),Sopora japonica (エンジュ),Salix (ヤナギ属),Gingko (イチョウ),Lagerstoemia (サルスベリ属),Koelreuteria (モクゲンジ属),Platanus acerifolia (モミジバスズカケノキ),Ailanthus (ニワウルシ属) などの街路樹が次々に現れるので結構楽しめる. 北京駅周辺は木陰の芝生に地方から出てきた人達が昼間たくさん寝ている. 中には乞食もいるようで,しつこく5〜6才の子供が金をせびってくる. 追い払うとその母親がやってくるというようないやな思いもしながら,王府井ま で歩く. 新しいスーパーマーケットのようなところを冷やかしたり,シュウマイを買ったり,北京日報社や大きなビルが立ち並びすっかり変わりつつある通りの写真を撮ったり,北京飯店をのぞいたり,McDonnald の店に入ったりしてみた. 何でも中国語にしてしまうので,ピエールカルダンや McDonnald の中国語を書き写したり,本屋でオウム真理教に関する本を見つけたりして結構楽しんでまたバスで北京空港に帰った.

    北京空港から瀋陽行きの飛行機に乗り込み,瀋陽に10時前に着いた.しかしこれから難儀なことが起きた. 私が予約した遼寧賓館は有名なホテルだが,タクシー運転手が知っているから任しておけというので任せていたらまったく知らなくてあちこち走り回って這々の体でホテルに着いたら夜中の12時だった.

    翌13日,朝ホテルに来客があった. それが蒙古族の布さんとすでに退官されている Nan Yinhao (南寅鎬)先生だった. お二人が調査についてきていただけるということであった. 早速,応用生態学研究所にうかがって調査の打ち合わせをした. 中国語が片言なので,英語でのコミュニケーションに難渋するのではないかと思っていたが,南先生は何と日本語が大変お上手で,打ち合わせだけでなく調査時の討論も実にすばらしかった. 内蒙古はちょうど雨期で日本と共通種が多く見られる地域には,車では行けないという. しかたなく,近くのGanqikaへ行くことに決まった.

    14日朝10時にホテルを出発. Populus (ハコヤナギ属)や Salix matsudana (中国のシダレヤナギ) の街路樹が並ぶ道をただひたすらジープで走る. 周辺の丘陵にはトウモロコシ畑が圧倒的に多く,それにコウリャン畑やキビ畑が混じる. 低地は水田でなかなか手入れの行き届いた美田である. 新民市を過ぎると水田は少なくなり,畑作が多くなる. トウモロコシ畑である. いわゆる中国の東北平野をひた走ることになる. このあたりになると街路樹に Ulmus pumila (葉の小さいニレ) が多くなる. しばらくすると,波状丘陵が続くようになり,所々で硅砂を採掘している. 栽培植物はもっぱらトウモロコシが多くなる. 昼頃になるとだんだん耕作地が少なくなり,草地が多くなる. 南先生によれば,この草地が草甸だという. いよいよ来たかと興奮してくる. あちこち止まって見たいのだが,この先どれだけ走るのだかわからないので,あきらめて写真を撮り続ける. オートフォーカスカメラの威力発揮である. 見ると,優占する植物はヨシである. ところが,内蒙古にはいるとまた水田が目立つようになった. 南先生によれば新しく開拓して水田を作ったのだという. 年間降雨量450mmぐらいのかなりな乾燥地帯に入っているのに,不思議なことにあちこちに池があり,Alisma plantago-quatica (サジオモダカ) や Typha latifolia (ガマ) などが見える. 走り続けているうちに,13時30分にGanqikaに着いた.

    すぐに県の党書記などの歓迎を受けて,会食になった. ごちそうを昼間から食べる歓迎の方式にとまどいながら,馬酒という土地の高級酒での度重なる乾杯に,「不能喝(bu nun ha)」を連発するはめになる. 食後15時から,最近国の特別保護地区に指定されたという Daqinghou に出かけた. 1時間で Daqinghou に着く. 着くなり初めて見る植生に驚かされる. 波状に連なる固定砂丘といえる地形が続き,そこには Morus alba (マグワ),Ulmus macrocarpa (ハルニレに似たニレ),Crataegus pinnatifida (サンザシの仲間),Prunus armeniaca (アンズ) が散生する. まったくの砂地である. ところがそこに,小さな川が開析した谷があり,谷底へ向かって谷の斜面には見事な林が成立している. 満州の王の狩場だったという. 斜面では Quercus mongolica (モンゴリナラ) が優占して,低木層に Crataegus pinnatifida (サンザシの仲間),Rhamnus diamantica (クロウメモドキの仲間),Lespedeza bicolor (ヤマハギ) などが見える. 谷底に降りると, Fraxinus mandshurica (ヤチダモ),Phellodendron amurense (キハダ),Acer mono (イタヤカエデ) が優占する河辺林である. Acer ginnala (カラコギカエデ),Prunus baccata (エゾノコリンゴ),Pyrus ussuriensis (アオナシ),Impatiens textori (ツリフネソウ),Circaea quadrisulcata (ヤマタニタデ),Geum aleppicum (オオダイコンソウ),Agrimonia pilosa (キンミズヒキ),Geranium sibiricum (イチゲフウロ),Picris dahurica (コウゾリナの仲間) があり,北海道の林によく似ているという印象を強くする. 谷底から斜面を登って少し開けたところに来て, Sophora flavescens (クララ) が咲いていた. 感激の対面である. 見ると横には,Allium (ネギ属) が2種花を付けている. Dianthus subulifolius が濃いピンクの花を付けている. Asparagus schobelioides (キジカクシ),Artemisia sacrorum (ヨモギの仲間),A. pubescens (ヨモギの仲間),A. grigida (ヨモギの仲間),A. scoparia (ヨモギの仲間),Lespedeza davurica (オオバメドハギ),Scrophularia ikonnikonii (ゴマノハグサ),Potentilla chinensis (カワラサイコ) などがある. クララ,キジカクシ,カワラサイコのような日本と共通の種や,種が違っていても近縁のものがあって大変感動する. 斜面を上がりきって上に出ると,植生がなければまさに砂丘のようで歩きにくい. そこに Astragalus dahurica (モメンヅルの仲間),Polygonum aviculare? (ミチヤナギ?),Iris tenuifolia (アヤメの仲間) や少しアルカリ土化しているのか Salsola ruthenica (ハリヒジキ) のような植物も見られる. 暗くなるのも忘れて歩き回った. 日暮れて宿舎について,何とすばらしい一日だったことかと幸福な気持ちに浸りながら資料整理に追われた.

    (つづく)


    受け入れ資料(1994年2月〜1996年9月)

    東京都桜ヶ岡公園管理所より
    「桜ヶ丘公園雑木林ボランティアニュース」Vol.3 No.11〜Vol.6 No.5
    「桜ヶ丘公園今日はこれをみていこう」No.45〜No.75
    「平成6年度桜ヶ丘公園雑木林ボランティア活動記録集」
    「平成7年度桜ヶ丘公園雑木林ボランティア活動記録集」

    エコ・コミュニケーションセンターより
    「水土里の森」第9〜39号

    橿原市昆虫館より
    「GONTA」No14〜23

    岐阜県哺乳動物調査研究会より
    「岐阜ふるさとと動物通信」第51〜72号

    (財)日本レクリエーション協会より
    レクリエーション No.439,440,443,444


    1995年度 里山研究会会計報告

    収入
    項目金額備考
    繰越158424-
    カンパ54800-
    合計213224
    支出
    項目金額備考
    通信費16360切手,封筒
    繰越196864-
    合計213224

    投稿をお待ちしております

    「里山」では,皆様からの投稿をお待ちしております.意見・質問・おぼえがき・身近な自然の話題など何でもかまいません.また,里山に関する文献の情報もお待ちしておりますので,よろしくお願いします.

    カンパのお礼

    次の方々からカンパをいただきました.厚くお礼申し上げます.

    第5回講演会参加者,陣内直行,松尾政子,土橋志のぶ,平澤猛男,岡部佐内,村田源,有馬洋子,堀田和裕,藤井哲哉,土屋和三,(財)日本野鳥の会保護調査センター,瀧井寛子,倉本宣,後藤達彦,巽正平,小池浩一郎,松田達郎,添田孝史,中川要之助,山城稔幸,大堀聰,境宏之,和田浩司,横山俊治,畚野剛,大住克博,池田重人,洲崎燈子,斉藤昌宏,辻村千尋,青山喜博,(株)都市緑地研究所,加藤治好,松本定,五味義明,羽切利勝

    (順不同・敬称略)

    カンパのおねがい

    「さとやま」は,皆様からのカンパをお待ちしております.よろしくおねがいします.カンパは切手でもかまいません.

    なお,郵便振替口座を開設しておりますので,ご利用ください.口座番号は,01030-2-11462,加入者名「里山研究会」です.

    また,経費節減のため,原則として領収書は発行いたしておりません.とくにご入り用の方はその旨おしらせください.