さとやま

里山研究会ニュースレター
第3号
1993年2月8日発行


第2回公開講演会を開催します

きたる2月27日(土曜日),第2回公開講演会を開催いたします。詳細は4ページをご覧ください。

「南山城の更新統の地形上に発達する里山の総合的研究」スタート

1991年の生態学会での自由集会,1992年春の京大生態研センターによる「ワークショップ 里山の現状」で示され,強調された点は,里山が,生態学や他の自然系・人文系の研究を早急に必要とする,また独自の興味深い課題を持つ対象であるということでした。

しかし,里山という人間活動の影響の下にさまざまな生物過程が作用する自然の特性を明らかにするためには,各分野の研究者による個別の研究だけでなく,それらを総合したアプローチも必要となります。

このため,京大生態研センターと森林総研関西支所が中心となって一つの調査プロジェクトを立案しました。'92-93年度は自然科学的なアプローチを中心に計画し,土壌学や河川工学をはじめ,植物・動物・菌類の生態学・分類学の研究者が幅広く参加することとなりました。このプロジェクトが日本生命財団の研究助成を受けることとなり,'92年10月ようやくスタートしました。

この研究では,アカマツやコナラの林・竹林・溜め池・水路・水田など,さまざまな要素を含む地域全体を里山のシステムをなすものとしてあつかいます。各自が行う研究を関連させて行えるよう共通のフィールドを設定しました。フィールドは木津西岸に広がる丘陵地の一端にあたります。この地域は,古木津川により堆積した更新統と呼ばれる地形上にあり,粘土層を含む堆積構造は時として斜面上に湿地を作り出し,また人間の利用により溜め池となります。こうした地質・地形的な要素が作り出す複雑な環境が,里山にすむ動植物・菌類にどう影響しているのかという点も今回の調査の主な課題の一つです。

また,里山は,定期的な下刈りと伐採とにより維持されてきた特有の自然環境ですが,従来は「二次林」・「代償植生」として扱われ,その生物相の特殊性は近年まであまり注目されることがありませんでした。管理された林の明るい林床でしか生活できないカタクリの例は有名ですが,このような里山に依存する生物について もっと調査が必要です。今回の調査ではさまざまな側面から里山生物群集の特質を考えてみたいと思います。

また,中・長期的には,里山の生物群集が持続的に維持されうるために必要な条件についての検討として保全生物学的な研究や,現在の,また潜在的に里山が持っている環境調節機能と人間活動との関係についての検討なども進めていくつもりです。

このほか里山に関する調査研究の文献情報データベースなども考えております。

この調査の進展状況や,成果はこの紙面や講演会などを含め,順次皆様にもお知らせいたします。また,同様の研究を進めている方と情報交換をしたいと思っております。

この調査に関する御意見・お問い合わせは京大生態学研究センター田端または佐久間までお寄せください。

(佐久間大輔・京大生態学研究センター)


「里山管理と鳥類 その課題」の感想…の・ようなもの

伊東宏樹(森林総研関西支所)

昨年11月,大阪市立大学でひらかれた日本鳥学会の自由集会「里山管理と鳥類 その課題」に参加する機会がありましたので,これについて感想のようなものを書いてみたいと思います。「感想のようなもの」ということで,きちんとした報告にはまったくなっていませんが,その点はお許しください。また,記憶に曖昧な点もありますので,事実に反する部分がありましたら,指摘していただきたいと思います。

さて,なにしろ里山に関する問題はたくさんありますので,限られた時間で議論をつくすということにはなかなか困難な部分があるでしょう。この自由集会でも,最後は時間切れということで議論が打ち切られたように感じられました。もっとも,さまざまな問題があり,そのひとつひとつが重要な問題であるため,わりあてられていた時間ではとても結論が出るというわけにはいかないのもやむをえないことでしょう。

そのような中で,議論の対象のひとつとなったのは里山の管理の手法に関する問題でした。たとえば,里山の下刈をして林内を明るくすると ある種の蝶はふえるが,それによって他の種の蝶はすめなくなる,こういった問題をどうするか,といったことです。これに対しては,下刈をするところとしないことろというモザイクをつくるべきであって,画一的な管理を行うべきではないといった意見が出されました。実際,里山の種の多様性にはホイッタカーのいうβ多様度(環境の不均一性による多様度)が大きなはたらきをしているものと思われます。京都府南部の里山の土地条件はまさにそうであって,粘土・砂・礫などが複雑にいりまじり,放棄田は湿地となっています。そして,おそらくは,この土地条件の多様性がこの里山の多様な環境の土台となっているものと考えられます。この里山に関しては調査が始まったところですが(前項の佐久間氏の文章を参照),遠からず結果を報告できるでしょう。それはさておき,そのような土地条件でないところの里山でも,薪炭林として使われているあいだは何年かおきに伐採されることによりいろいろな段階の林が並存していたものと考えられます。そして,そのような結果から里山の多様性が維持されてきたのではないでしょうか(無論,はげ山になるまで収奪したりすれば多様度は低くなるでしょうが)。

自由集会に話をもどしますと,どういう目的で里山管理を行うのかということが もうひとつの論点であったかと思います。これは,先に書きました管理手法と密接に関係する問題です(というより,管理手法の前に管理の目的がなくてはならない)。たとえば,レクリエーションの場として,とか,景観の保全,種の多様性の保全,希少種の保存などさまざまな目的が考えられるでしょう。この場合,ひとつの目的のための管理手法が他の目的とは相反するものになる可能性もありえます。この問題は結局は,その場所ごとにその場所に適した目的(ひとつとは限らない)を設定してそのための管理をおこなうということになるのではないでしょうか。とすると,ある場所にふさわしい里山管理の目的を設定する(社会的合意の形成を含む)方法と,その目的を実現するための管理技術(費用の負担といった問題をも含めて)ということが問題になります。しかし,こういった問題には未解決の部分がまだまだ多いのが現状であります。

里山に関する関心が市民の間で高くなってきています。しかし,上に記したような解決すべき問題がまだまだ残っているということを考えますと,さらに多くの市民がこの問題について考え,意見を出しあい,議論を深めることが必要でありましょう。身近な自然環境を美しく豊かにするということはそれなくしては不可能であると思います。

以上,自由集会の報告からはだいぶ脱線してとりとめもなく勝手に書いてしました。何かご意見などございましたら,投稿をよろしくお願い致します。


第2回公開講演会のお知らせ

昨年9月に引き続き(あまりに間があいて引き続きといえるのかちょっと不安ですが),里山研究会では公開講演会を行ないたいと思います。里山をフィールドとして長年研究活動を続け,また緑化コンサルタントとしても独特の仕事をされている高田研一氏,本紙でも「からのくに里山紀行」を連載し,また自身イタチ研究を続けている渡辺茂樹氏のお二方をお招きします。お誘い合わせの上ご来場ください。

里山研究会第2回公開講演会

日時:1993年2月27日(土)PM2:00〜4:00
会場:京大会館(京都市左京区吉田阿達町 TEL:075-751-8311)
プログラム
高田研一「里山の周辺」
渡辺茂樹「里山とイタチ」
参加費:無料
お問い合わせは
京大生態研センター・佐久間
075-753-4250  または
森林総研関西支所造林研究室・伊東
075-611-1201  まで

「ワークショップ・里山の現状 '92-93」のお知らせ

昨年に引き続き,京大生態学研究センターでは里山を主題としたワークショップを開催いたします。昨年は広く自然史研究・生態学から市民による里山の管理にいたるまで,8人の演者の独自の研究・体験に基づいた講演により大変刺激的なものになったと思っております。主催者も含めて,改めて里山を認識するよい機会でした。

さて,先の記事にもありますように,本年度は南山城地域の里山研究もスタートします。より具体的に里山研究を進めるためにも,改めて,認識の幅を広げるためのワークショップが必要と考え,開催の運びとなりました。

内容としては,昨年に引き続き,自然系・人文系の研究者と市民グループからの参加者が予定されています。講演者および講演内容については確定しだい,次の里山ニュースでお知らせする予定です。

「ワークショップ・里山の現状 '92-93」

主催:京都大学生態学研究センター・里山研究会
後援:日本生命財団
日時:1993 3/18(木)19(金) 10:00AM-17:00PM
(3/20にエクスカーションを予定
所:京大会館(京都市・左京区吉田阿達町)
お問い合わせは京大・生態学研究センター
TEL:075-753-4250または753-4240
FAX:075-753-4253


投稿

からのくに里山紀行 (第2回)

渡辺茂樹(フリーアルバイター)

釜山から智異山に行くのにはまずタクシーで郊外のバスターミナルに行き,そこから晋州経由の直行バスを利用するのが便利である。私以外の3人はいずれも夜ふかしをして朝が遅かったため,全員がそろってバスに乗りこんだ時刻は昼12時を過ぎていた。

車窓に見る光景は,一見したところ日本にもありそうな田園風景である。ただ,日本の代表的造林木であるスギが全く見あたらないことに,わずかに異国の趣を覚える。

スギがないのは北海道の大半と沖縄も同じだが,これらの地にはない本州と同じ種類の(と思われる)マツが,スギの代わりに山をおおっているのである。所々には日本でいうところの雑木林(おそらくクリ・クヌギ林)も散見できる。要するに植生が貧弱で動物の観察が容易ではと考えた予断は見事に打ち砕かれた。林床にササが多く見通しが悪いのは,日本のそれと全く変わりない(40年たってるんだ……考えてみりゃ当然か)。

平坦部の過半を占めるのは無論水田である。唐辛子畑も散見できるが面積はそれほど広くない。そして田畑のへりはおおむね石垣で固められている。無論日本にもそのようなものはあるけれど,最近はコンクリートでべったりと固めてしまうことが多いように思う。河川の護岸もそうだが,韓国ではコンクリートの単純な壁は比較的少なく,石を丹念に積み重ねた光景が目立つのである。この工法が高句麗の城壁(中国のそれが版築であるのに対し石築で知られる)に由来すると考えるのはたぶん大袈裟だが,石を好む民族性のようなものがあるいはあるかも知れないと考えた(あるいは単なる経済的理由だけかも知れないが)。

ともあれ,石積みの壁はある種の動物,殊にイタチにとっては大変結構なものである。その隙間が格好の繁殖巣になるのはニホンイタチの場合だが,おそらく異種シベリアイタチ(亜種名チョウセンイタチ)でも同様だろう。図体がでかいぶん出入りすることができる隙間は限定されようが,おそらくその故に巣穴の発見はより容易である。この季節に石垣の前に数時間も座りこめば,おそらくこの動物の親子関係が容易に観察できるに違いない。

このような私の想いを乗せたまま,バスは猛スピードで智異山に向かった。制限時速50kmの道路で,100km近く出ていたように思う。名にしおう韓国の交通事情というやつである。そして登山口のバス終点着は15時30分。ここから宿舎の自然学習園までは未だ少しあるが,職員の人が車で迎えにきてくれていた。

(つづく)


投稿をおまちしております

「さとやま」では,みなさまからの投稿をおまちしております。意見・質問・おぼえがきなど何でもかまいません。なお,このニュースレターは原則として再配布自由としますので,あらかじめご承知ください。

各団体から資料をいただきました

つぎの各団体の資料をいただいております。閲覧ご希望の方はご連絡ください。

東京都桜ヶ丘公園雑木林ボランティア(倉本宣氏から)・在日本韓国YMCAアジア青少年センター(森良氏から)・橿原市昆虫館(日比伸子氏から)・お米の勉強会(村山日南子氏から)

カンパのお礼

次の方々からカンパを頂きました。お礼申しあげます。

山村靖夫・佐伯敏郎・北野日出男・朝子哲夫・畚野剛・大串龍一・中村浩二・里と水辺研究所・清水善和・松田達郎・村田信・松下まり子・五味義明・大西広子・山本広行・横山和正・網元博・松本定・加藤治好・伊藤徹魯

(順不同・敬称略)

カンパのおねがい

「さとやま」は,みなさんからのカンパで発行しております。よろしくおねがいします。カンパは切手でもかまいません。

なお,郵便振替口座を開設しておりますので,ご利用ください。口座番号は京都3-11462,加入者名「里山研究会」です。

また,経費節減のため原則として領収証は発行いたしておりません。とくにご入用の方はその旨おしらせください。

編集後記

たいへん遅ればせながら,あけましておめでとうございます(まあ,旧正月ということで)。本年もよろしくお願いいたします。

(伊東)

スタッフの大半が研究者ということもあり,ニュースレターの発行と公開講演会の企画が調査のあおりを食らって大幅に遅れてしまいました。言い訳ですね,ごめんなさい。

(佐久間)