エコリゾート「赤目の森」の活動について

伊井野雄二 (エコリゾート赤目の森)

資料をみていただくとわかると思いますが,里山を誰がどのように守るのかというテーマで,今日一日やってきまして,明日も行われるわけですが,問題は里山に人をどうやって集めるか,これなんですね.で,どう集めるかということにはいろんなジャンルがあると思うんです.私たちのように観光資源として里山を扱っているところ,それからエネルギー資源もあるだろう,今日は医療機関の人もいますね,それから林業体系の中でワイヤーをどうやって張るかということを真剣にやっておられる方もいるかもしれません.いろんなジャンルで里山にどうやって人を集めて,里山をどうやって活性化させるのか,もうひとついうと,吉津さんがいいことをおっしゃっていましたけれど,里山というのは不安定なんですよ.萌芽というんですね,里山の一番のポイントは,暖かく見守ったら,里山が里山でなくなるということはご存じですよね.そこに僕はものすごく魅力を感じるんです.日本の自然保護であたたかく見守ってやろうという自然保護がどれだけ浸透したでしょうか.萌芽ですよね,伐って伐って伐りまくって,更新して新しい時代をもういっぺん作りだそうという思想が,自然保護につながるというんでしょう.これは,僕は本でも学んだし,田端先生にも教わりました.不安定な里山を,ただ見守っているのではなしに,どんどん使って萌芽でどんどん新しい山を更新させる.その中で営々と築いてきた種の多様性,それから里山が里山である心地よさ,が保たれていると思うんです.「赤目の森」では里山に行って下さいね,歩いて下さいねというのですが,わからないんです.都会から来た人は何をいうと思いますか,そこに行って何がありますか,というんです.そこで,なんにもなければ歩けないのかと逆に聞くんです.そういうことを言葉で伝えるのはなかなか難しいことで,里山の良さや里山の大切さを伝えるにはやっぱり里山に人を寄せなければならない,その仕組みをどうやって作っていくのかということなります.いろんな餌がいるわけです.まあ馬の前に人参をたらすとき,どんな人参がいいのかということがやはり大切だと思っているのです.ぼくは,たかだか 200ha の山を大切に思っているひとりですが,吉津さんは宅建の資格を持って土地の売買を行っている.僕たちはそういう資格を持っていません.200haといっているんですが,そのうち一坪も持っていません.

吉津さんは日本の山にはなかなか入れないというものの,紀伊半島のど真ん中の名張というところには,まだ里道というものがあって,それを歩くことにだれも文句をいう人はいない.そこで,私たちはそこをホーチミンルート1号とか2号とか呼んで,そこを復旧,つまり元に戻すということをやっています.誰も歩かなくなっている道を,竹薮だらけになっている道を,毎日毎日草刈りをしながら,その200ha を自分達のエリアとして管理しているわけです.ただし管理をしているというのは,僕たちが思っているだけです.地主さん達は400人います.私たちは地主ではないんですが,このたび赤目の里山を育てる会で,はじめて2934m2を150万円で購入することができまして,それが第一号のトラストになるんですが,はじめて赤目の地に自分達の土地を持ったことになります.

エコリゾートを作ったのは1992年,ちょうどこの里山研究会と同じですが,11月に作りまして,総工費が1億2000万円かかっています.場所は,海抜が230mくらいです.年に数回しか雪は降りませんし,積雪もそんなにありません.赤目の森天文館があります.直径が35cmのテレストロンという天体望遠鏡をのせて,私が解説をしています.平飼いのニワトリを1000羽ほど飼育しています.うちは,4本足の肉はお客さんに出さないという考えがありまして,2本足の肉しか出しません.また,旅館の料理は,健康料理,薬膳とか玄米菜食という考えではなくて,30年くらい前にお母さん達が作ってくれた旬の野菜を生かして,季節季節の魚を取り入れた料理というのを心がけています.

私たちは有限会社でエコリゾートを運営しているんですが,自然を守るためにはNPO の市民活動のような取り組みがどうしても必要だということで,去年(1996年)の2月に「赤目の里山を育てる会」を作りました.

整備された里山を2キロくらい歩くことが,価値観を変えたというようなご家族がよくいらっしゃいます.父権の回復ということです.こういう里山は,道がカーブしていますから,道を曲がると何か出て来るんじゃないかと,やはり男の後ろを歩くというんです.お父さんが頼もしく見えましたという,ことが結構あるんですね.里山の良さというのはその場にいって,実際に触れるということだと思うんですが,そこまでみなさんを連れていくことは本当に難しいと思っています.