「たもかく」の里山保全

吉津耕一(たもかく)

もともとうちは林野庁の林業構造改造事業という補助事業がきっかけで始まった協同組合,只見木材加工共同組合が母体になっています.だいたい1億2千万円くらいの補助金をもらっています.先ほどから行政に対する苦情や批判がでていますが,お金をただでもらっていいことは何にもありません.私は16年やって,もらった補助金以上の税金納めてますけれども,それはもらった協同組合の仕事で納めてるんじゃないんです.トラスト,ビザ,パスポートなどのかたちで都会の人にいろんな形でお金を出してもらい,それによって仕事をする,あるいは農家をリフォームして,地元の人なら壊してしまうような農家を,これは日本人のふるさとだということで,囲炉裏や大黒柱や吹き抜けのあるような民家をリフォームして,それを買ってもらう,そういうお金で払った税金が補助金よりも越えているだけで,もともと補助金なんかもらってなければ借金に苦しむこともなかった.もっとも,こうしてここにいることもなかったかもしれないですけれども.実は,農業や林業や,先ほどからの里山がどうのこうのなったという話は全部,補助金があるから,規制があるからダメなのであって,これを農家の人が,自分のお金で自分のやりたいことをやっているのであれば,もっといろんな手法もあったしいろんな可能性もあったし,もっと活力もあったのではないかと思うのです.

デカップリングというのが今盛んに言われています.要するに,日本の農村は日本の水とか景観とか風景とか景観を支えているものだから,都会の人間から税金をとったり補助金を出したりして,日本の農業とか林業とか景観を守ろうという話です.それに対して私は,そういうことをやってきたから農村がダメになったんだと言いたい.ボクサーならば,10万人くらいボクシングやってる人間がいて,そん中からせいぜい10人くらいがテレビに登場するのだが,それでもやりたい奴はいるわけです.農業の方はどうかといういうと,政府が8割補助金をくれてもやりたくないと.なんでやりたくないというと,そこにその人の「ウォンツ」がないんです.本当は農業がものすごくおもしろければ,田舎のあばら屋に住んでも,農業に夢持ってるから飯が食えなくても農業でがんばってみたいという若い人が来ると思うんです.来ないのは農業がおもしろくないからです.何でおもしろくないのかっていうと,政府とか農協とかが作物の管理,作り方,お金の貸し出しまで,全部規制とかマニュアルがあってそこからはみ出た人は,競争上すごく不利になるから,だからダメなんであって,好き勝手にやらせてくれればいいと思うのです.

うちの会社はもともとは補助金をもらって,木工をやっていたんです.いざそこで,木工の仕事を始めてみて,本当に愕然としたんです.だいたい私が黒字にするまでの3年間というのは,毎月板で3000m3くらいのブナを潰していまいた.ということは,丸太でいうとその3倍くらいの量を潰すんです.ですから年間何万m3というブナを潰すんですが,まあ,潰すのもいいんですね,本当にそれが必要なことでそれ以外に方法がないのなら.

だけどそれを作って,都会のメーカーに売り込みに行くと,ゴムの木とかそういうもので作った全く同じものが,輸入されていて,見た目にはわからないんです.ゴムの木もブナの木も.200年300年のブナ材を,毎日毎日残業して最低賃金で働いて,都会からファックス一枚で寸法表が送られてきて,それで作って出して,これが本当に地元の林業の構造改善とか地元の産業の発展とか,経済発展に役に立つのか,と私は痛感しました.本当は自分が都会にいたときに感じたように,ブナの森に都会の人たちに来てもらって,一緒にブナの実を拾うとか,春の新緑の山に行って一緒に山菜を採るとか,そういう事がいいんじゃないか,と.

ブナの木を切ってしまうのではなくて,ブナの実を拾ったりブナの森で山菜を採ったりキノコを採ったりして遊んでもらうと,そうすれば切ってしまわずに山はそのまま残りますし何回でも,その資源を使って何回でもお金が回収できるわけです.私はそういう事がやりたいなと,そのときにそう思いました.

一番最初にやったのは,農家のリフォームです.古い農家に住んでいると,日本の古い農家はいやだな,と,不潔で暗くて不便で汚くて,と誰でも思うんです.でも,都会に行って飲み屋なんかに行くとみんな囲炉裏がきってあって,ビルの中に古材なんかが使ってあったりして,日本人というのは,古い日本の古い家や煤けた大黒柱とか,囲炉裏とかを懐かしがっているのではないかということで,地元の人が壊してしまう農家を買い取ってそれを,きちんと修理して,都会の人たちに提供した.それがものすごく大反響を呼びまして,それで只見にたくさんの人が来るようになったんです.年間2000人くらいの人が来るようになりまして,朝から晩まで,お客さんを案内するということが,バブルの前3年くらい続きました.

その仕事をしながら,私は思ったんです.日本人の平均貯蓄額である1000万くらいで土地家屋が手にはいるようなセカンドハウスの供給をやっていかなければダメだろうと.もうひとつは,私自身農村で,子どものころ何が一番楽しかったか,都会にいた頃農村の何が一番なつかしかったか,というとやはり,山に入って遊んだとか川に入って遊んだとかそういう事です.皆さんの中で,田舎に行って満足したということがありますか.どこへ行ってもダメだなと思うんですが,今ウルグアイラウンドとかで,20億円30億円の金がぼんぼん出されて「美しい農村づくり」とかいって,ブルトーザーで「美しい農村」を作っているんですよ.とにかく,今ある農村に魅力があるから来るんじゃないんです.今ある農村はダメだから,20億円30億円のお金をかけて汚くて不便で不潔な農村を壊して,美しくて近代的で都会の人が喜ぶような農村を税金で作っているんですよ,今.それで,都会の人が田舎へ行くと,入れる山があるかというと,たいてい「この山入るな,地主」とか,書いてあって都会の人は田舎の山に入れないんですね.ほとんど日本全国,特に東北の山で,都会の人が入れるのは観光ワラビ園とかそういうところだけです.やっぱり地元の人しか入ったことのないようなところに,地元の人と一緒に入って行くと親指みたいなゼンマイがでていたとか,マツタケが自然にでているところに地元の人に連れていってもらって得られる感動と,そういう人間が税金で作ったところで得られる感動とは,全然違うんではないかと思いまして,お客さんがいっぱい来ているうちに,お客さんにお金を出してもらって山を全部買ってしまおうと思ったんです.

今までに530人くらいの人に株主になってもらって,2億8000万円くらいのお金を集めているんです.これは全部山に化けてまして,130町歩くらい,40万坪くらい山なんです.そこに株主は自由にはいって山菜取りしていい,キノコ取りしていい,それからそこの山の一部で本と交換したり,300坪50万という形で販売しているんですが,そういう形で,都会の人も田舎の人も自由に入れる山を確保したり,あるいは田舎の人が林業やるお金を都会の人に出してもらう仕組みづくりをずっとやってきたんですね.どうも最近は疑問を感じるようになってきたのは,10年ほどやってみたら手元にお金が全然ないんです.山になっているんです.山になってもいいんですけど,よく考えてみたらもう少し順序立ててやればよかったんですね.はっと気づいてみると資金効率がものすごく悪いんです.

時間も残り少なくなってきましたので,私がこれからやりたいことと,今日の話でたくさんでていたなかで,これは違うんではないかということがあるので,それを話して終わりたいと思うんです.

一つはこれから,私がやっているようなことあるいは全然別のことでもいいんですが,こういう自然を生かしたリゾートとか,自然を生かした事業活動をやっている全国のお山の大将同士で全国組織を作ろう,お互いに提携しよう相互乗り入れをしようということです.岩手県の藤沢町,ここが第1号なんですが,ここは町の第3セクターで,やっぱり国営のパイロット事業で,400町歩くらいの農地を造成してリンゴを植えて,それを全部有機栽培で,同じようでできるだけ無農薬有機栽培で,都会の消費者と直接交流して事業を展開していこうとしています.そこと,一番最初に提携しました.

これから全国的に提携したいなと思っているところに,環境庁の民間活動支援室というところが,年度末の予算が余ったから,全国から変なのを集めてシンポジウムをやろうということで,変なのを集めたんです.そこに三重県の赤目の森から伊井野さんも来ていまして,私は今日3万円もかけてこのシンポジウムに来たけれどこんなくだらない話,もととれへんわ,という話をされまして,おお,同じポリシーの人がいた,と思いました.そのとき伊井野さんが,でも3万円かけてきて一番よかったのは「たもかく」と会えたことだと.そこまでいわれたら提携するしかないかなと.

次は,みなさんNHK なんかでごらんになったこともあるかと思いますが,食用の廃油を回収して,それで車を走らせよう,廃油でディーゼルエンジンをまわそうということを民間でやっている,染谷商店というところが提携第3号になるんです.油と森の交換で,油を持ってきてくれた人にはささやかながら只見の森をあげようじゃないかということで提携しようかと思っています.

最後にひとつだけ,私は,農業林業にデカップリングとか,理想的なこれがあるべき姿だというものを当てはめることはものすごく危険だと思います.私は,農業林業というのはそこに関わる人たちの「ウォンツ」の問題だと思うのです.「ウォンツ」を作り出せばもっと,農業林業やりたい人も,自然に山の手入れを進める方法もあると思うんですね.