炭焼きの現状

岸本定吉 (炭焼きの会)

日本には2通りの炭焼きがある.ひとつは山で焼く炭であり,もう一つは町で焼く炭である.

山で焼く炭は,里山に直結した伝統的炭焼きである.日本の炭窯は,弘法大師が中国からもちかえったとも伝えられる.炭窯の,煙の出る穴を「弘法穴」と呼んでいる.この炭は白炭であり,仏教の寺のあるところに多く,信州でも,善光寺周辺だけ白炭で,天竜川ぞいは黒炭である.中国でも早く開けたところは白炭であり,日本の炭焼きは中国に由来していると考えられる.

鎌倉時代には黒炭も使用されていた.その後,茶の湯が盛んになると,茶の湯に使われる黒炭も改良されていった.炭材としてクヌギが使われる.大阪北部の池田炭や,関東では佐倉炭が有名である.

庶民の炭としては明治以降,主にナラが炭材として使われた.産地としては岩手県北上山地が有名である.

紀州の備長炭は,ウバメガシを炭材とする非常に燃焼性に優れた炭である.ただし,最近では,中国備長もはいってきている.

もう一つの,町でやく炭とは,木材加工工場の廃材などを原料としたものである.黒炭であり,炭化工場で工場生産される.オガライトを原料としたオガ炭もある.

炭の特徴としては,一本の木ですべてができるということが挙げられる.木材は,セルロース・ヘミセルロースとリグニンとで成分の9割以上を占める.セルロースは糖類であり,300℃で200cal/gの発熱がある.炭焼きでは,最初に火をつければ,あとの燃料がいらず,自分の発熱で炭化していく.400℃でリグニンの分解が終わる.白炭の場合は,リグニンが分解してきた時に空気を入れる.このため,分解したガスが燃え,1000℃になる.具体的には,炭焼きの途中に炭材を窯から出して土をかけることをおこなう.

白炭は中国でうまれたが,なぜ中国で白炭の技術がうまれたのか?中国は寒いので,暖房用の炭が必要である.火持ちが長いことと,有毒な一酸化炭素ガスが少ないことが必要であった.中国で一番古い炭は,揚子江中流で発見された7000年前の白炭で,遺体を炭で包んでいたものである.

木炭の生産量は戦後では昭和32年に200万tあったが,現在では激減している.石炭も,7000万tから200万tに激減したが,石炭には保護策があったのに,木炭には無かった.農業という面でも,冬に炭を焼くというのは労働配分としてぴったりであった.

最近では,燃料以外の用途が注目されている.木炭には様々の大きさの穴があいている.汚水成分を吸着し,また各種の微生物の住処として有効であり,汚水浄化機能抜群である.

木炭粉は土壌改良資材としても利用されている.木酢液や炭灰も利用できる.


オガライト
簡易燃料の商標名.おがくずを加熱・圧縮して筒状に固め、薪のようにしたもの. (三省堂「大辞林」)