スウェーデンの木質エネルギー事情

1998年8月に木質エネルギー利用の実状を調査するためにスウェーデンに出かけた.

この調査旅行は,最初私の個人的な調査旅行のつもりであったが,計画途中から緑化推進協会の助成をうけて発足していた「木質エネルギー利用研究会」の事業として行われることになり,会長の筑波大 (当時) 熊崎実,島根大小池浩一郎,京大田端,「木質エネルギー利用研究会」事務局の小島健一郎,里山研究会の三浦正彦,それに熊崎研の学生2名で総勢7名で行くことになった.

私は研究上の関心から,木質エネルギー事情の調査に先立って,ツンドラや亜寒帯の植生をみるために一行より早く出発した.ストックホルムに1泊してすぐに Kirna へ飛び, Kirna から汽車で Abisco に向かった. 見るものすべてが珍しく町並みから,駅舎から人から片っ端から写真を撮りながら, Abisco についた. Kirna はまだ Picea abies の針葉樹林の中にあったが,だんだん Picea abies が減ってきて,途中からこのあたりの亜寒帯林のシラカンバ林になった. それもほとんどシラカバ Betula pubescens ssp. tortuosa だけの林なので圧倒されてしまった. これほどのシラカンバ林はまず他では見ることができないのではないかと思う. 東アジアのダケカンバ Betula ermanii 林に相当する亜寒帯のカンバ林である (ここでいう亜寒帯は,従来日本でいわれている植生帯区分とは異なっている).

Abisco では大変おもしろい経験をした. Stockholm から Kirna への飛行機の中で隣り合わせた鉱山局の女性から,スウェーデ ンに来たんだからぜひスルストゥレーミングを試すようにとすすめられた.

私はそれがどんなものであるのか知らなかった. そこで宿舎の人に聞いてみると,ほんとうに食べるのかなどと変なことをいう. 「もちろんだ」などといって,約 3km 歩いて買いに出かけた. 熊崎さんと2人で林の中へ入ったりしながら1時間半ぐらい書けてようやく得っている店を見つけた. 入って店員に聞いてみると知らないという. するとレジにいた店員が売っていると教えてくれた. 意外にもそれは缶詰であった. レジへ持っていくと,これは茹でたジャガイモといっしょにインドやネパールのチャパティに似た薄いパンに挟んで食べるのだと教えてくれた. 早速パンとジャガイモをいっしょに買って帰った.

小さな湯沸かしでジャガイモを茹でて,缶詰を開けた. 缶切りで缶に穴を開けると,すごい勢いで強烈に臭いガスがふきだした. 「ほんとうに食べるのか」の意味が分かった. 鰯の塩辛で,発酵して臭くなったものだとわかった. 味はまあまあで,2日間これを食べた. しかしこれがそれからの木質エネルギーの調査で意外な効果を発揮することになった. 「私はスルストゥレーミングを食べた」というと,「へー?」ということになり,和やかな雰囲気で話をすすめることができた. さて,私たちのバイオマス利用に関する調査は8月24日から始まった.

8/24

Farmers Bioenergy Project (Kolbräck)

ヤナギを栽培する19人の農民がバイオマスを使った熱利用施設を経営していた. 200ha のヤナギ栽培で燃料をまかない,4年に1回コムギ収穫用のコンバインで収穫して,萌芽更新で24年間栽培し続けるという (8回収穫). 地方自治体と15年有効な契約を結んで,熱を学校,図書館などの公共施設に集中暖房用に売っている. 規模は2MW. さらに今後10年以内に小規模な発電技術が開発されるだろうが,現段階では小規模施設でのコジェネは考えていないということであった. これは意外な答えであった. 施設の償却は15年で考えられていた.

Mellanskog社 (Enköping)

バイオマス燃料を扱うスウェーデン最大の会社. バイオマス利用の地域暖房施設の増加に伴って業績が向上した. 提供されるバイオマスは林地残材,製材廃材,栽培ヤナギからえられる. 利用者側からの要請で年間通して水分含量を 45% にする. 経済的な供給範囲は半径 100km である. また,23年間バイオマスの生産量は増え続け,価格はここ安くなっている.

8/25

Swedish University of Agricultural Sciences (SLU) (Uppsala)

Prof. Nilsson, Prof. Hektor, Prof. Lundkvist らから,スウェーデンにおけるバイオマス利用の歴史,現状,問題点 (とくに生態的問題点など),将来展望などについて講義を受けて,意見交換.

Brista Energy Company (Brista)

Swedish District Heating Association (Stockholm)

Mr. Trärneから,参加会員数約160,職員数5名など Assorciation のこと,バイオマスに関する諸統計の話. 1981年地域暖房でのエネルギー利用はオイル83%,ゴミ5%,廃熱4%,石炭3%だったのが,1996年には14%になり,バイオマス利用が23%,ヒートポンプ13%,廃熱8%,石炭8%,ゴミ9%,ピート6%,天然ガス6%,電気3%となる. 地域暖房の90%は Local authority の所有である. ヒートポンプを使った地域冷房も増加する予測.

8/26

TPS社 (Studsvik)

ガス化プラントの研究現場の見学.次世紀の中頃には再生可能なエネルギーが主流になり,バイオマスはそのなかの主役.

Swedish National Energy Association (Stockholm)

エネルギー需要を巡る諸統計,諸政策について話を聞き,資料提供を受けた.

8/27

VäxjoはSödraの本部があること,Växjo市当局がバイオマス利用指向が強いということで特別な場所といえる.

Local Authority and Växjo Energy Company (Växjo)

発電能力10万kWhのバイオマスコジェネ施設の見学. 設備の大きさ,燃料置き場の大きさに圧倒される.

Södra Skogsenergi AB (Växjo)

最大の森林組合. 世界的規模の木材会社でもある. 現場での林地残材のバイオマス製造見学. Södraと林家との関係などに関する意見交換.

8/28

SVEBIO (Stockholm)

有名なSVEBIOを訪ねる. 驚いたことに職員数が5名であるという. その活動内容から考えて,こういう能率的な組織が必要なのだと考えさせられた.

Swedish Association of Local Authorities

COP3に協賛して開催した里山研究会にスウェーデンから参加してくれた Leckströmさんのオフィスである. 部長のBylundさんをはじめ職員も参加し今回の調査の総括を日本側,スウェーデン側から行った. 今後の交流を約してタイトなスケジュールの調査を終えた. 詳細については,今後日本の取り組みの方向を見定めながら,スウェーデンの何を学ばなければならないかを報告していこうと考えている. 収集した資料をどのように利用するかを考えたいと思っている.

(田端)