<転載>バイオマス・ニッポンヘの里山からの提案

「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定される前に、「バイオマス・ニッポン総合戦略骨子」が2002年6月に出された。以下は、「週刊農林」に「バイオマス・ニッポン総合戦略骨子」に対して「バイオマス・ニッポンヘの里山からの提案」と題して、里山からの問題提起をしたものである。引用文献はなかったが、ここでは文末に付け加えた。

バイオマス・ニッポンの早期実現に必要な視点と課題 (1)

田端英雄
(里山研究会・岐阜県立森林文化アカデミー)

7月に発表された「バイオマス・ニッポン総合戦略骨子」は、本格的にバイオマスの利活用が政府の政策として取り上げられたという意味で画期的であるが、ここでは、この総合戦略に関連した間題点や考慮されなくてはならない視点について若干の議論をおこないたい。とくに、この総合戦略は地球温暖化防止と持続的な発展可能な社会あるいは循環型社会の実現を目指すものであると書かれているので、この点に関連して論点を少し整理する必要があると考える。持続可能な社会とはどのような社会なのか。あるいは循環型の社会とはなになのか。その上で、里山林のバイオマス利用についての提案をしてみたい。かつて薪炭林として繰り返し伐採され、そして再生を繰り返してきた里山林は、資源の持続的利用の見本のような自然である。しかも、そこには自然の循環機能に適合した資源を循環させる社会、つまり循環型社会をかいま見るような仕組みがあるからである。しかし現実には、その優れて再生可能なバイオマス資源である里山林が、近年利用されることなく放置さているが、里山林のバイオマス資源の利用は「バイオマス・ニッポン」の実現に不可欠ともいえる。

1. 持続可能な社会の実現にむけて

資源をふんだんに消費し、環境を破壊し、分子ゴミを含むゴミを出し続け、次世代に膨大なマイナスの遺産を残す社会は、持続的な発展可能な社会に対立する社会である。ゴミを出し続ける社会に対して、自然の循環機能に適合し、資源とくに自然資源を節約し資源を循環させる社会を実現しなければ、未来はない。われわれの世代の資源を浪費し、環境を破壊して、発展を求めて走り続けてきた結果、次の世代に大きな負担を背負わせる事になってしまったわけで、どうしても将来へ向けて世代間の公平性が保証できるような社会的な仕組みを必要としている。持続可能な社会の実現には、環境問題と資源間題が立ちはだかる。「バイオマス・ニッポン総合戦略骨子」のなかにある、持続的な発展可能な社会=「バイオマス・ニッポン」という図式は、あまりにも持続的な発展可能な社会あるいは循環型社会を単純化した提案のように誤解を受けそうである。バイオマスを使えば持続的な発展可能な社会が実現するということではないだろう。地球温暖化は、依然としてさまざまな不確かな問題を多くはらんでいるものの、地球は温暖化するだろうと予測されている。したがって、地球温暖化防止に役立つことは些細なことであれ、できるところから手をつけるべきであるといった意味合いのバイオマスの利活用をすすめる提案であるとすれば、「バイオマス・ニッポン総合戦略骨子」の発表を軽く読み飛ばすこともできょうが、この「バイオマス・ニッポン総合戦略骨子」は6月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」と関連して提案された、いわば「持続的な発展可能な社会」「循環型社会」を実現するための、日本政府の基本戦略ともいえるものであると考えるのが当然であると思う。であるとすれば、バイオマスの利活用をすすめることによって「持続的な発展可能な社会」「循環型社会」を真に希求しようとする気迫あふれる充実した考察と実現可能性を追求したものでなければならないのではないか。私はこの「バイオマス・ニッポン総合戦略骨子」から、そういった熱いものをくみ取ることが残念ながらできなかった。

スウェーデンをはじめとする環境問題の先進国での取り組みなどもふまえて、日本はこのように持続的な発展可能な社会を実現するのだという総合戦略と、そのなかにあってバイオマスの利活用を進める総合戦略の提案であってほしかった。さらに、ヨーロッパとくにスウェーデンなどの環境政策の先進国でのここ数十年間の取り組みは、税制をはじめとするさまざまな政策支援があってはじめてバイオマスの利活用が可能になった貴重な試行錯誤の経験があった。そして、近年OECD加盟国では環境政策のなかで、環境税のような経済的手段が大きなウェイトを持つにいたっている。実際に多くの加盟国で環境関連税が導入されている。しかも、炭素税などの課税によって明らかに二酸化炭素の排出が抑えられ、エネルギー需要にしめる化石燃料の使用が減少し、それとリンクしてバイオマス利用が促進されたことがはっきりしているので、バイオマス・ニッポンの実現のために、「バイオマス・ニッポン」を推進するサイドからの社会経済的な政策支援についての大胆な提案を「バイオマス・ニッポン総合戦略」には盛り込むべきであると強く主張したい。

スウェーデンは炭素税を導入してエネルギー需要の中での化石燃料使用をへらし、つまりバイオマス利用をすすめることによって、結果的に二酸化炭素の排出を削減することに成功した国のひとつであるが、そのスウェーデンで、今も真剣な二酸化削減目標達成にむけて熱い議論が行われていることと比べるとき彼我の温度差を感じてしまうというのが私の率直な思いである。そこでは炭素税の、課税の範囲、家計にしめるエネルギー消費の占める割合に関する調査をふまえた課税の公平性や、二重配当の可能性などについての議論が今も行われていて、官民であつい議論がなされている。

地球温暖化防止をいうならば、大気中の温室効果ガスを現状レベルに維持するためには、二酸化炭素で60%以上の排出削減をしなくてはならないという試算もあるので、経済の仕組みも環境保全を第一とする経済に変えなくては、対応できないだろう。環境税だけでなくさまざまな環境政策、新しい経済的手法を導入しなければならないだろう。そして、その中で、・バイオマス・ニッポンはどのような位置を占めるのかという議論を総合戦略には、ていねいに書き込まなくては、「骨子」のなかでのべている、国民各層のバイオマスの利活用に関する共通認識を期待できないのではないか。 そのためにも、「バイオマス・ニッポン総合戦略」の策定にあたっては、上に述べた諸点をふくめて、以下のような検討をしなくてはならないと思う。

世代間の公平性を確保する手法: 環境税をはじめとする税制の検討。これは単に公平性の問題だけではなく、バイオマス利用を進めるためのバイオマスの価格決定に大きな影響がある。

環境税の根拠: どうしても二酸化炭素などの「帰属価格」、環境税の基礎であるだけでなく、バイオマス利用を進めるときの補助金あるいは助成を考えるときの、費用対効果を考える根拠にもなる。しかし、日本の現状をふまえた「帰属価格」が必要である。しかも、これは排出権取引の価格決定とも関連している。

炭素税などの環境税の課税と税収との関係、環境税の課税と家庭の家計に対する影響などの問題の検討。スウェーデンではこういった問題を検討する委員会がつくられ、そこでの結論がバイオマス利用にいかされている。バイオマス・ニッポンでも、バイオマスの利活用を進めるにはこういった資料や理論の整備が必要である。産業の競争力維持のための環境税の減免についての議論も必要であろう。

農林業におけるバイオマス:林業でのバイオマスについて、どのような形態のバイオマスがあるのか。林地残材、製材廃材、建築発生木材などについてだけでなく、里山林のバイオマスも含めたバイオマスの利活用の緻密な調査に基づいた提案が必要。とくに林業を活性化させることができなければ、「地域材及び木材バイオマスの利活用の推進」はできないので、これを生きた、気力あふれる提案にする必要である。

ナタネなどエネルギー作物の栽培による農地の有効利用とバイオディーゼル生産とその利用。バイオ燃料に対する免税措置の提案。

2. 国民的合意の形成と

地球温暖化防止一つ取り上げても、われわれの世代だけでなく、いや次世代、次次世代までより大きく影響を受ける問題で、もっと真剣な議論を巻き起こし行動に移さなければならないところまできてしまっているのに、せっぱ詰まった雰囲気が日本における議論からは全くといって感じられないのがいらだたしい。それはわれわれの日常の生活のありよう、われわれの日常生活の思想、社会や経済や財政のありよう、行政のありようをどのように新しい時代に即応するものに変えてしくかといった問題と関わっていて、どれ一つとっても並大抵のことでは解決しない重い問題である,ましてや、「持続的な発展可能な社会」や「循環型社会」は、誰も経験したことのない新しい社会へ移行していこうとする人類的なある意味では崇高な試みについての、いわば偉大な提案なのだと私は思っている。人類の未来をかけたすごい提案なのだといっていいのだと思っている。それをいかに実現していくかに関して、「骨子」の表現を借りれば、「国民的理解の醸成」はとても難しい課題である。それは、バイオマスの利活用が今どれほど必要であるかを語りかけることでは達成できない。そこには、国民の心を突き動かすような「思想」が必要である。ヨーロッパの国々が「京都議定書」の環境目標達成に強硬な意見を主張しているのは、ヨーロッパ各国における真剣な議論と行動によって支持されているからであるということを、思い起こす必要がある。やはり、ヨーロッパの国々における一般国民の議論や行動に目を向ける必要がある。少なくともわれわれよりもずっと真剣である。

「持続的な発展可能な社会」や「循環型社会」を実現するには、19世紀から20世紀につくられてきた今の社会の仕組みや経済の仕組みではだめで、新しい思想を実現する社会や経済の仕組みは多分変わらなくてはならないのだと思われる。今、それはどんな仕組みなのか、古い社会の何が変えられなくてはならないのか、どんな新しさを持った社会や経済の仕組みなのか。模索している。「持続的な発展可能な社会」や「循環型社会」の実現は、こういった言葉を使うだけでは実現しない。それは、ものすごい人類史的な壮大な試みなのだという語りかけがなされなければ、国民の合意形成は難しい。それはとてつもなく困難なことなのだ。

それは例えば、今私たちが何の疑問もなく使っている「廃棄物」といった言葉を必要としない社会、理想的にはそれは「廃棄物」がない社会なのだといえばいいのだろうか。そういった社会を目指す壮大な実験なのだといえばいいだろうか。さもなければ、「循環型社会」は実現しない。昨年の本誌の「自然エネルギーが拓く21世紀の農林水産業・農産漁村」の「里山から見る自然エネルギー」の中で、私はそれは「資源を浪費し、分子のゴミを含むさまざまなゴミを出し続けて環境を破壊し、次世代に負担しきれないような大きなマイナスの遺産を残さない」社会とか、「自然の循環機能に適合した、自然資源を節約し、資源をできるだけ循環させる」社会と書いたが、それでは本当の意味で循環型社会など実現できない。しかし、「循環型社会」へ向かって、何を今始めなくてはならないか、問いかけることなくして、国民の合意形成はやはり望めないのではないか。

植物の光合成が太陽エネルギーを捕捉しエネルギーをもたらす森林や草原は、信じられないような巧妙な仕組みを持った、人類の社会的共通資本である。この生物的自然がたければ、つまりこの驚くべき生態系のサービスがなければ、人類の存続はありえないのに、空気や水は当たり前でそれに経済的な価値があるなどとは考えてこなかったように、生態系を当たり前とし、破壊してきた。しかし、本当に今のまま生態系を破壊すれば間違いなく人類は破滅するというところにきてようやくその重大な価値に気がつき始めた,植物の生育をささえる土地と水は生態系の基本的基盤である。農地の荒廃、林地の荒廃は循環型の地球の構造を破壊し、今人類が希求する「循環型社会」を実現することができなくなってしまう。

自然のサービスは何によっても代替えすることができないだけでなく、その経済的価値を評価し決定することは不可能である。生物多様性の維持も、生物社会年よるサービスを確保し持続可能な社会を実現するために不可欠であるということを「バイオマス・ニッポン総合戦略」の中で明確にしておくことが必要である。私がこれから議論しようとする日本の里山の位置づけも、こういったコンテクストの中で行わなければ説得的でありえないのである。薪炭林として使われてきた里山林では、伐採することによって利用することによってしか、その生物多様性の維持ができないということはきわめて重要な自然認識である。そのために、里山林のバイオマス利用が意味を持ち、里山林という社会的共通資本の保全がそのことによってのみ可能になる。

バイオマスの利活用についての合意形成については、次回で論じたいが、何も政策支援がなければ、バイオマスは化石燃料とくらべて高い値段設定になってしまう。にもかかわらずバイオマスを使う意志決定を国民がするためには、どうしても上述のわれわれはどこへ行こうとしているのかに関する議論が必要である。しかし、「帰属価格」にもとづいた次世代への負担に関する忌憚のない率直な語りかけが不可欠である。もちろん、環境税やエネルギー税についての考察が必要である。政府による環境税の取り組みが遅れるならば東京都などが提案している地方自治体におけるグリーン課税なども議論の対象になってくるだろう。 エコロジカルな視点、自然資本の経済の視点から、あるいは税制等の社会や経済や財政をふくめた総合的な視点から、新しい社会へ向けて、個人も企業も国家も新しい行動をとるときがきている。

(週刊農林1836号,2002年11月5日掲載)

バイオマス・ニッポンの早期実現に必要な視点と課題 (2)

田端英雄
(里山研究会・岐阜県立森林文化アカデミー)

2005年以降に、炭素税の導入とその税収を地球温暖化防止対策に使うことが、政府によって検討され。ているが、待ったなしで着手する「バイオマス・ニッポン」には問に合わない。そこで、バイオマスの利活用をすすめるための当面の政策支援を考えなくてはならない。前号でふれた「帰属価格」とは、環境負荷がもたらす将来にわたる負担の評価であるが、それは環境税の根拠でもあり、世代間の公平性の議論の基礎でもあるが、それはまた環境負荷の削減に対する補助金額あるいは排出権の買い上げ価格の根拠にもなる。ここでは帰属価格に関する議論は省き、最近発表された環境省の買い上げ価格CO2 1kg当たり50円(10月29日付け日経新聞)を基礎に議論をすすめたい。

環境関連税と国内・国間の排出権取引とを組み合わせることによって、二酸化炭素の排出削減を目指すのが政策支援である。価格調節によって化石燃料の消費を抑制するとともにバイオマスを使いやすくする課税による支援は当面ないので、環境省による買い上げ価格をもとにバイオマス利用によってもたらされる二酸化炭素削減の利益を算定し、それをバイオマス利用を効果的に可能にするために使うことにする。この手法についての検討をお願いしたい。この場合、環境税の税収がないので何らかの財源を使うことに対する合意が必要である。

以下は里山林と農耕地からなる里山からの提案である。

1. バイオディーゼル(農耕地の利活用)

環境問題だけでなく、液体燃料の需給のギャップをうめる燃料としても、バイオマス燃料が注日されている。植物油をエステル化したバイオディーゼル燃料(BDF)は、軽油とくらべて多くの優れた特性を持っていて、二酸化炭素の排出削減や硫黄酸化物の減少だけでなく、BDFの排気ガスはその生態毒性が軽油と比べて極端に低いので、「バイオマス・ニッポン」でも強力に取り組むべきである。

1.1. 廃食油のBDF化

年間約50万トンある廃食油の回収を、食品加工施設や飲食店からの回収率を80%、家庭からの回収率を20%にすることによって25万トン回収できれば、毎年574トンの二酸化炭素削減になる(排出係数:2.64,BDFのライフサイクル二酸化炭素排出削減率:0.8として算出)。削減量は2,870万円となり、地球温暖化対策推進新大綱の自動車交通対策部門の目標値450万トンの0.013%にあたる。

1.2. バージンオイルのBDF化

ドイツでは、環境税と補助金の政策支援で2003年にはバイオディーゼル燃料の生産能力を2001年の50万トンから2年で倍の100万トンにするほど力を入れている。

農地の保全と生産力維持のためにも、日本でのBDFの本格的な導入には、日本産ナタネを使ったRME(菜種油からのBDF)生産が本筋である。静岡県の試算によれば、菜種の転作助成金43,000円/10アールを含めると200kg/10アールの収量で米作収入を超える。1アールの菜種栽培による二酸化炭素削減は約8万円(1.6トン)であるから、8千円/10アールの加算が可能である(搾油率:35%)。

どのようにして栽培面積の拡大をはかるか。静岡県トラック協会の取り組みを紹介しよう。東京都知事の発言を契機にRMEに取り組み、農家が栽培した菜種を全量協会が買い取ることにし、1農事組合法人の協力で昨年の11。5ヘクタールから今年は一挙に100ヘクタールにする計画である。こういった事実をふまえて、控えめな提案として、各都道府県が約100ヘクタール(2003年度合計5,000ヘクタール)から始めて毎年倍増すれば、2008年には栽培面積を16万ヘクタール(二酸化炭素削減25万トン、128億円、自動車交通対策部門の目標値450万トンの5.6%)にすることができる。二酸化炭素削減は6年間で51方トン(253億円)になる。

さらに付け加えると、静岡県立磐田農業高校で、日本のエネルギー生産や環境保全に寄与する目的でナタネ栽培が提案された時、生徒たちが目を輝かせたというエピソードは今後の農業のあり方を考える上で示唆にとんでいる。生徒たちがこういった提案に農業の未来を感じたとすれば、意義は大きい。

<提案>

2. 里山林の木質バイオマス利用

薪炭林として使われてきた里山林は、バイオマスエネルギーの宝庫であり、伐採後自然に再生する優れた特性を持っている。まさに再生利用可能なエネルギー資源である。里山林をくりかえし伐採利用することによって、生態系のサービスを確保し、生物のすみ場所の多様性を確保し生物の多様性も保全できるから、里山林のバイオマス利用は、これだけの里山林を持つ日本が「持続可能な社会」の実現をめざす「バイオマス・ニッポン総合戦略」の中心的な課題である。

岐阜県上石津町における私たちの調査結果に基づいて提案してみよう。 地域でもっとも導入しやすく、一般家庭など民生部門での利用が展開しやすい木質バイオマスのペレット利用を中心に述べたい。

<里山林のバイオマス量と伐採搬出のコスト>

39年生のコナラ林では絶乾量で、157トン/ヘクタールの蓄積がある。ここではこの蓄積量を基準にして議論をすすめる。もっとも能率的な伐採搬出をしている素材生産業者のコストを基準に、伐採搬出コストを1万円/m3(絶乾量)とする。

<灯油ボイラーのペレットボイラーへの転換>

灯油ボイラーによる22,370リットル/年の灯油消費量は、ペレット換算で49トン/年になる。二酸化炭素削減量は、灯油による排出量を16トンも上回る(360万円/年)。燃料費は、ペレットの方が1.24倍割高になる。

<一般家庭での開放形の灯油ストーブのペレットストーブヘの転換>

エネルギー需要調査の結果、主要な灯油ストーブの平均熱使用量は3,240kWh/年でペレット換算で878kg/年であった。二酸化炭素削減量は、1.29トン/年(約65,000円)である。燃料費は、ペレットストーブと同等な規格の煙突付きストーブと比較すれば、1.38倍割高になる。実際に使われている開放形ストーブと比較すると、燃料費は約1.9倍になる。二酸化炭素削減量3年分の助成でペレットストーブヘ転換できる。

<ペレット製造プラントの建設>

上述の規模のペレットボイラー2台、一般家庭540戸(全戸数の1/3弱)にペレットを供給できる小規模なプラント(ペレット製造能力300kg/時間で、年間576トンを製造)を建設すると、建家をのぞいた建設費は約4,200万円である。このプラントの建設で、灯油約28万リットル/年の灯油(1,330万円)を節減し、ペレットによる二酸化炭素削減量は845トン/年(4225万円)であるから、1年の削減量でプラントの設備建設はできてしまうことになる。2年目以降の削減量分を、二酸化炭素削減のための助成に回すことができる(740万円/年の助成で灯油との価格差をなくすことができる)。このプラントに必要なバイオマスは、毎年4ヘクタールの里山林を伐採することによって供給でき、生長量から判断して25−30年で一巡させるのが望ましいので100–120ヘクタールの里山林を必要とする。

(灯油の二酸化炭素排出係数:2.51,灯油ボイラーの熱効率:85%,ペレットボイラーの熱効率:80%,灯油の発熱量:8,900kcal/リットル,ペレットの発熱量:4,325kca1/kg,ペレットのライフサイクル二酸化炭素削減率:80%,灯油:47.5円/リットル,ペレット:27円/kgとして算定した)

<合意形成について>

一般家庭にペレットストーブを入れる場合、日常の生活の中から地球環境の保全や世代間の公平性、資源問題、狭い屋内の住空間の環境問題から少々高くても化石燃料をバイオマス燃料に転換する決断をするかどうかが問われることになるので、合意形成に役立つ情報の公開と、住民が納得した決定でなければ実現は不可能であるから地域での政策決定過程への住民の参加が欠かせない。何よりも個人のインセンティブを高める質の高い状況作りが重要である。

地域の里山林で生産したペレットを、販売、灰の回収などを地域のガソリンスタンドが担うような形で、地域で消費する仕組みができれば、エネルギーに関する地域自立型の経済が展望でき、それに伴ってわずかでも雇用の創出も期待できる。

<提案>

参考文献

(週刊農林1837号,2002年11月15日掲載)